第67話 マジック ページ17
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『初デート、楽しすぎます』
Aが俺を見上げ、無邪気な笑顔を見せる。
こぼれる白い歯に、こっちの頬まで緩みに緩んだ。
おそろいの被りもの。
はぐれないように繋いだ手。絡む指。
『鉄くん』と俺を呼ぶ、君の声。
何この幸せ。
雑踏の中でも、エグい待ち時間かつ長蛇の列の中でも、彼女の笑顔だけはきらめいて見えた。
正直に白状すると、数々のキャラクターより何より、Aに夢中です。
無意識に溢れた本音に、当の本人は思いっきり苦笑いした。
眉間にシワを寄せながら。
えっ、待って、引かないで。本音なんすけど。
『ハイハイ』と、軽くあしらおうとするAの手を、ぎゅうっと握って、その気を引く。
「言い忘れてたけど、今日のA、ダントツで可愛い」
「えっ、そ、そう?……あ、ありがと」
不意打ちに弱い君は、思った通り、俯きがちに頬を染める。
そんな仕草に、胸の奥のやわらかい部分が瞬時にざわめいて、恋する乙女みたく、君のことしか考えらんなくなんの。
ね、すごいでしょ?
It's magic.
なんてな。
「鉄くん、次、ここ行かない?2人乗りだから、手、繋いだまま乗れちゃうんだ」
「いーね。待ってた、そういうの」
「やったぁ、じゃあそれで決まり」
嬉しそうに目を細める君と視線を交わす。
おとぎ話の世界みたいな空間は、そこにいるだけで全てがロマンチックに思えてきて、頭がおかしくなる。
他の客がいなかったら、ありったけのキスとか、跪いてプロポーズとか、してたかも。
ガチで。
待って、引かないでって。
けどさ、何つーか、俺、けっこうマジで、Aのこと、愛してるんだと思う。
伝わってる?この感じ。
届いてたらいいんだけど。ま、届かなくてもそのうち良いようになるはずでしょ。
俺たちは。
俺がそう思えば叶うようになってるからね、世の中は。
「A」
「ん?」
「俺も楽しい」
「あ、チュロス食べたい」
「ふっ、相変わらず自由ね、あなたは」
「そこが好きなんでしょ?」
返事の代わりに、キス……はできないから、やっぱり返事を。
「まあね」
君の言うとおり、そこが好き。気が触れるくらいにね。
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作者名:pomme | 作成日時:2024年2月25日 22時