第65話 初デート ページ15
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初デート。
その、甘美でくすぐったい響きに、頬が緩む。
いつもより可愛いって思われたいし、そう言われたい。
リップを指でぼかしながら、鏡の向こうの自分に目配せした。
待ち合わせ場所に着いたのは、予定の20分も前。
さすがに気合い入りすぎかな…。
急に恥ずかしくなって、心の中で自嘲気味に笑った。
おろしたての洋服は、まだ馴染んでいないからか、私だけ浮いてるようにも思えてくる。
意味もなくホコリを払った。
スマホを見ても、さっきからまだ1分しか経ってない。
内カメにして、前髪を整えて、ほんの少しだけ口角を上げてみる。
笑顔の練習……って、側から見たら確実に不審者。
鉄くん早く来て〜。時間前だけどさ。
顔を上げた丁度そのときだった。
『わりぃ、お待たせ。てか、早』と、照れたように笑う君の姿が目に入った。
「ご、ごめんね。何かソワソワしちゃって」
「奇遇ね。俺も超ソワソワしてたし、実はAよりずーっと前に着いててさ」
『あそこから見てた』と、鉄くんが柱の影を指差す。
「すぐ来てくれたらよかったのに」
「……あのなぁ、Aさん。彼女が俺のこと待ってる瞬間、これがなかなかキュンとすんのよ。おわかり?」
「わかんない」
「わかってよ」
鉄くんがさりげなく手を握って、私を見下ろし、クスリと笑う。
「さ、行きますか」
「う…うん」
視線を交わす。それだけで、トクリと胸が甘く高鳴った。
「電車で1時間って、意外と近いよな」
「東京は便利だね〜」
「ふっ、何言ってんの今更」
鉄くんに手を引かれるがまま、行き交う人の隙間を縫うように、器用に歩く。
それで、とりあえずわかったことが一つある。
私服の鉄くんは心臓に悪いってこと。
たった一つ。ただそれだけ。
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作者名:pomme | 作成日時:2024年2月25日 22時