第64話 ご予定は ページ14
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時が過ぎるのはとっても早い。
何だかんだお互いに忙しくて、デートの日取りも行き先も決められぬまま、1週間が経ってしまった。
そして今日も鉄くんは、私の真後ろの席で、窓の外を眺めながら器用にペンを回していた。
受験がどうとか考える気力もなくなるほどの、退屈な授業。
唯一の癒しは、さっき鉄くんがくれたレモネードだけだ。
彼が見てるのと同じ景色を眺め、背中を伸ばす。雨足はだんだん強まっていた。
次の小テスト用の資料を取りに、先生が教室を出る。
去り際、『好きなように過ごしてろ』とか言うもんだから、途端に教室中が慌ただしくざわめき出す。
それを見計らってか、鉄くんが後ろから私の名前を呼んだ。
「Aさん、ちょっとご相談が…」
「何でしょう」
『耳貸して』と言う彼の、ネクタイを大胆に崩した首元が目に入って、心臓がうるさくなる。
朝から変な色気演出しないで…。
「どした?耳真っ赤だけど」
目が合うと、鉄くんは見透かしたようにニヤリと口の端を上げた。
「な、何でもない」
顔を背ける私に、『本日の可愛いA、いただきました』とか、小声で楽しそうに笑う。
もう、やめて。
その生意気なお口、塞いでください。
「で、何、相談って」
気を取り直して尋ねると、鉄くんはふわっと笑って、机の上にペンを置いた。
「デート、今週末はいかがですか」
飛び込んで来た、鉄くんの優しい声。
ざわめきにかき消されそうな小さな声で、『もちろん』と答えた。
『ここ、行きたいんだけど、Aはどう思う?』と、差し出されたスマホを見つめて、大きく頷く。
「あとは天気次第だな…」
そしてそう呟きながら、彼はティッシュを丸めて、てるてる坊主を作り始めた。
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作者名:pomme | 作成日時:2024年2月25日 22時