第63話 今が一番 ページ13
.
「楽しそうにやってんね」
夜久くんを見送った私の隣には、代わりに、いつの間にか鉄くんがいた。
鉄くんと呼びたい気持ちを押し殺して、『何ですか、キャプテン』と、隣に立つ君を見上げる。
「どうよ、2日目。多少は慣れた?」
「うん。楽しいよ、すっごく。みんな優しいしあったかいし」
そう返すと、鉄くんはふっと笑った。
「そりゃあ良かった。俺も楽しい。もしかすると、今が一番……なんてな?」
長い前髪から覗く、綺麗な瞳。
鉄くんの真っ直ぐな視線に絡み取られ、ドキドキと心拍数が上がった。
あぁ、ずるい。そんな表情。
見慣れたはずの笑みなのに、初めてみたいに胸が高鳴った。
「へ、へぇ…。そう…なんだ」
照れてるの、何となく悟られたくなくて、首に巻いたタオルで、額の汗を拭うフリをする。
『でも、黒尾くんはいつだって楽しそうだよね』と、照れ隠しの一言も添えて。
「まぁ、そうかもだけど……」
鉄くんが私の頭の上にその大きな手を置く。そして、くしゃりと撫でながら、そっと私の耳元に顔を寄せた。
「Aのおかげ、かな?」
言葉一つで簡単に染まる頬。上がる体温。あと、止まらないドキドキ。
勘弁して…と項垂れる私と、それをニマニマ見つめる鉄くんを、他の部員が注視してたのは、言うまでもない。
「…それ、本心?それとも、例の作戦?」
「さぁ?そこは、お任せってことで」
釣れない表情で笑うくせに、小声で『……デートの件は、また今度な』とか言ってくる鉄くん、あなたは鬼ですか。
836人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:pomme | 作成日時:2024年2月25日 22時