第61話 心おどる ページ11
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「一緒に帰んの、そういえば初めてだよな」
「気づいてたの?」
「そりゃそうよ。俺を誰だと思ってんの」
鉄くんがフフンとしたり顔で笑う。
知らない曲の鼻歌まで歌ってるし。
「鉄くん、浮かれてる…?」
『ん?』と、こっちを振り向く君の表情は、涼しさとは無縁で、胸の辺りがジンとした。
「そう見える?」
「うん。すごく」
「浮かれてるかどうか、Aさんだけに教えたげる」
『ほら、見て』と、鉄くんが言うから見上げると、おでこに優しいキスが降ってくる。
「わっ…ちょっと」
「ふはっ、照れるA、俺の大好物」
鉄くんは大袈裟に笑って、私の頭をくしゃくしゃ撫でた。
髪の毛ボサボサになっちゃうと不満を漏らしても、『ボサボサAも可愛いから良いんです』と、へらりと笑った。
んー、もう。
あなたはいつも、ずるくてかっこいい。
さらりと何てことない表情で、何度も私を驚かせる。
そういうところが大好きだけど、とても心臓が持たないです。
うー…と唸って、髪の毛を手櫛で整える。
ほら、鉄くんも手伝って。
そんな私にお構いなく、鉄くんは相変わらず読めない表情で私の名前を呼び、静かに見下ろす。
顔を上げ、数秒、視線を交わした。
すると、鉄くんはかしこまったように咳払いをし、わずかに微笑んだ。
「今度のオフの日、デートしませんか?」
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作者名:pomme | 作成日時:2024年2月25日 22時