第51話 想定外の ページ1
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黒尾くんのいつもの理論。そしてそれに伴うよくわからない作戦を呑み込んだ私は、再び体育館に返り咲いた。
『おかえりなさい!Aさん!』と、リエーフくんが弾けるような笑顔を見せる。
今はやめときなと思う反面、黒尾くんの表情がどんなのか見てみたくて、『ただいま』と笑顔で返した。
だけど、黒尾くんの表情は予想外に平坦なものだった。
なるほど。
作戦は案外本気ね…と、黒尾くんに視線を送る。
それに気づいた黒尾くんがこちらに近づいてくる。
そして、『何見てんの、“A”。俺のこと気になんの?』と、わざとらしく口角を上げた。
さっきキスした仲なのに。
作戦に忠実な君は、私を弄ぶように挑発的な口調でそんなことを口にする。
「ううん、別に。何となく見てただけ」
「あっそう」
さりげなく、不自然に映らないように言葉を紡ぐ。
これがなんとも難しい。
私に背を向け、コートに戻る黒尾くんの背中を見つめてしまう。
夜久くんや弧爪研磨くん。さらには未だに隣にいるリエーフくんまで、たくさんのメンバーがいるのに。
私の視線は、意識せずとも常に、あなたを追う。
黒尾くんが私の方をチラリと見て、目が合うたび、ドギマギした。
私の視線が熱を帯びれば……。つまり、好きという気持ちが溢れてしまえば、作戦は破綻してしまう。
黒尾くんの顔に泥を塗ることになる。
それだけは避けなくては。
だってあなたは、たった一人の、音駒高校男子バレー部のエースなのだから。
私はあなたの彼女として、私の職務を全うするよ。
そう、心の中で決め込んでいたのに…!
いつの間にか、リエーフくんに代わって私の隣に陣取る弧爪研磨くんに詰められています。
『先輩、さっきからクロのこと見過ぎ。クロのこと好きなの?』って。
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作者名:pomme | 作成日時:2024年2月25日 22時