黒尾くんのセオリー【黒尾鉄朗】

第０８話　照れてる ページ8

．





『照れてない』


嘘だった。


照れていないワケがなかった。

それは、私の意思に逆らって熱った頬が証明していた。


なんかわかんないけど私、超照れてる。


黒尾くんの言う“嬉しい”の破壊力。

それはもう、抜群で。


嬉しいという言葉と、それから、本当に嬉しそうに微笑むその整った顔が。

おかしなくらい、きらめいて見えた。



嘘をつくのは黒尾くんの仕事なのに。


私の方が嘘ついちゃってる。



「前の席、宗谷がいいなって席替えの神様にお願いした甲斐があった」


頬杖をつき、私と同じ目線に合わせて、黒尾くんは追い討ちをかける。


思わぬ真っ直ぐな瞳に捉えられ、私はただじっと、頬を薄桃色に染めた。


「ほんと良くないよ。こういうの」


「良いんだよ。俺が良いっていってんだから」


「あ、またその理論」


黒尾くんの悪い癖。

あなたにも、私にも、決まった相手がいるのに。


それなのに、黒尾くんが『良い』と言えば、良くなっちゃう気がした。


私の頬に微かに触れた、彼の体温。


『A、顔真っ赤』と、笑う声すら心地よくて、頭がおかしくなりそうだ。


無法地帯。

黒尾くんの法律は、黒尾くんが作っている。


彼に関わるものはすべて、彼の掌の上で良いようになっている。たぶんね。

第０９話　唯一無二→←第０７話　ふたたび

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す