第49話 愛おしい ページ49
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バタンと閉じられた扉。その前に立ちつくし、黒尾くんは大きなため息を一つ吐いた。
「A、俺はお前のせいで心が狭くなったみたいだわ」
『どういう意味?』と尋ねる前に、こちらを振り向いた黒尾くんの手が私の右耳のあたりに伸びる。
「わかってんだけどさ、こうなることくらい。簡単に想像つくし」
「あの…、黒尾くん……?」
私の小さな声は彼の耳には届いていないようだった。
その代わりに、黒尾くんは私の髪を耳にかけ、腰を落としたかと思うと、鼻先が触れそうなくらいに顔を近づけてきた。
「わっ、えっ…なに?」
「A。……今、お前の目には何が見えてる?」
「く、黒尾くん」
「……他には?」
「他って、黒尾くんしか見えないよ」
自分の意思とは裏腹に頬が火照るのを感じながら目の前の真っ黒な瞳を見つめると、黒尾くんはやっと顔を離して私の頭を撫でた。
「そっか。だよな」
相変わらず、彼が何を考えているのかはわからない。
けれど、私の頭を撫でる柔らかな手つきから、私への好意がほんものだということだけは確かにわかった。
黒尾くんのぬるい指先が髪を伝い、頬を撫で、唇を這う。
触れるようなキスをして、時が止まったように、見つめ合った。
珍しく、黒尾くんが先に目を逸らす。
そして恥ずかしそうに口にする。
「……リエーフに嫉妬した。情け無いよな」
「黒尾くんでも嫉妬なんてするの」
「わかんねー。……けど、Aのせいで俺だんだんおかしくなってんの。だからさ、責任とってちょーだいよ」
俯きがちに、クスリと照れたように笑う黒尾くんはいつになく愛おしかった。
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pomme(プロフ) - 処刑人さん» ありがとうございます🫶🏻🧚🏻♀️🫶🏻 (2月24日 11時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
処刑人 - ちゅき♡ (2月24日 1時) (レス) @page48 id: 7578fd3293 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます🙏🏻🥳 (12月25日 19時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
かおり(プロフ) - きゅんきゅんします💕続き楽しみにしております✨ (12月25日 5時) (レス) @page44 id: bad28e8810 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pomme | 作成日時:2023年8月7日 23時