第45話 ジンクス ページ45
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薄暗い空間のその先に、くらげの水槽が見える。
そのとき、『A』と黒尾くんがきゅっと軽く私の手を握った。
ナチュラルに名前を呼ばれるのがくすぐったくて、勝手に頬が熱る。
息の詰まりそうな、甘い空気。
『ん?』と、上の空で返事をしながら、斜め上を見上げた。
「くらげの水槽のジンクスって、あるだろ?」
「信じないって言ってたよね」
何かを言い淀み、黒尾くんがふっと笑う。
もう目前にはくらげの水槽が広がっていた。
半透明な傘が、色とりどりのライトに照らされて、ふわふわと漂っている。
「綺麗……」
そう、小さく呟く私の横で、黒尾くんは、私と目線を合わせるように、腰を落とした。
「ほんと、綺麗だな」
『こういうのを神秘的って言うのかな』と、さりげなく隣を見ると、少し微笑んだ君の瞳に、私が映った。
思いもよらぬほど近い距離。その真っ直ぐな瞳に捉えられ、あたふたしながら、黒尾くんを見つめた。
「わ、私、何か変なこと言った?」
すると黒尾くんは、『ううん』と柔らかく微笑んで、繋いだ手を離す代わりに、くらげの水槽を人差し指でなぞった。
「ジンクス、信じたくなった」
「えっ…?」
「愛が永遠になるとか、正直よくわかんねーけどさ…」
黒尾くんがまた、ふっと小さく笑う。
「……Aとのそれなら、信じたいって思った」
口元にやわらかな笑みを浮かべたまま、黒尾くんは真っ直ぐにこちらを見つめ、親指で私の頬を微かに撫でた。
それだけで、ドキドキと胸が高鳴って、身体中のあらゆる場所がそわそわと疼く。
「誓うよ、永遠の愛っての。俺が信じるから、叶うってことで」
『だからさ、キス、していい?』と、悪戯に微笑む君から、目が離せない。
“いい”と言う代わりに、浅く頷き、少し上目遣いに見つめてみた。
目を瞑って受け止める、さっきよりもどこか甘くて優しい口付け。
これで叶わないジンクスなんて、ないと思った。
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pomme(プロフ) - 処刑人さん» ありがとうございます🫶🏻🧚🏻♀️🫶🏻 (2月24日 11時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
処刑人 - ちゅき♡ (2月24日 1時) (レス) @page48 id: 7578fd3293 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます🙏🏻🥳 (12月25日 19時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
かおり(プロフ) - きゅんきゅんします💕続き楽しみにしております✨ (12月25日 5時) (レス) @page44 id: bad28e8810 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pomme | 作成日時:2023年8月7日 23時