第38話 本当の話 ページ38
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天井から足元、さらにはその下の地下のエリアまで占拠する大きな水槽の前で、私はぼうっと一人で立ち尽くしていた。
カラフルな熱帯魚の隙間を、真っ青なナンヨウハギが、落ち葉のように浮遊している。
私はそれを見つめながら、小さくため息を吐いた。
そのとき、見知った声が私を呼んだ。
「…A?」
思わず声のした方を振り向くと、途端に胃の辺りがきゅうっと軋んだ。
「黒尾…くん」
黒尾くんも、なぜだか一人だった。
「A、ひとり?彼氏は?」
なぜ、黒尾くんも一人なのか、その理由を尋ねる間もなく、黒尾くんがこちらに近づいてくる。
ドクン、ドクンと、自分の鼓動の音が耳まで届いた。
今、ここで、言わなきゃ。
それしかないと思った。
私はゆっくりと深呼吸をして、口を開いた。
「……あの人とは…別れたの。だから、ひとり」
「は?別れた?いつ?」
黒尾くんが驚いた表情で、私の左腕を掴む。
「……こないだ…体育館に忘れものした日。黒尾くんが送ってくれようとしたでしょ?あの日、あそこで鉢合わせた、その後に……ね?」
「何で黙ってた」
「い、言ったら、黒尾くんが困ると思ったから」
「…俺が困る?」
「別れた理由ね、私のせいなの。私に、新しい好きな人が…できたから……。…あ、あのね…黒尾くん。私…ね、あなたのことが……」
潤んだ瞳で顔を上げたそのとき、『クロ〜、お待たせ〜!』と、手を振る影があった。
それが、黒尾くんの彼女だと認識した途端、私はハッとして俯いた。
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pomme(プロフ) - 処刑人さん» ありがとうございます🫶🏻🧚🏻♀️🫶🏻 (2月24日 11時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
処刑人 - ちゅき♡ (2月24日 1時) (レス) @page48 id: 7578fd3293 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます🙏🏻🥳 (12月25日 19時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
かおり(プロフ) - きゅんきゅんします💕続き楽しみにしております✨ (12月25日 5時) (レス) @page44 id: bad28e8810 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pomme | 作成日時:2023年8月7日 23時