黒尾くんのセオリー【黒尾鉄朗】 (ページ35)

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第３５話　恒例行事ページ35

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黒尾くんのキスシーンを目撃してからというもの、私は彼への正しい接し方を模索していた。

何をするにも、あの光景がちらついて、勝手に気まずくなって、言葉がうまく紡げなくて、黒尾くんに怪しまれた。

そんなとき、黒尾くんは毎回、『俺、何かした？』と首を傾げる。

何もしてないわけじゃない。

けど、何かしたわけじゃない。

私の勝手な思い込みが、私自身を苦しめているだけだ。

そうして、私は適切な言い訳もできないで、『なんにも』と答えるだけだった。

それなのに黒尾くんは、飽き足らずにレモネードを差し入れてくれた。

そんな時だった。

毎年恒例、水族館への遠足のお知らせが舞い込んで来たのは。

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『“水族館のジンクス”って知ってる？毎年、遠足で水族館に行くでしょ？そのとき、くらげの水槽の前で好きな人とキスすると、その愛が永遠になるんだって』

いつからか、そんなジンクスがまことしやかに囁かれるようになった。

本気で信じてる人なんて、いるわけないでしょ。と、私も思う。

けれど、毎年毎年恒例のように、『〇〇が挑戦するって』とか、『あれからあのカップル、結婚したらしい』とか、ジンクスに付随する真偽不明の噂も流れてくるのだ。

だからと言って、くらげの水槽の前にこだわることや、そこでしたキスがトリガーになることや、永遠の愛の定義ついての、確かな理由を述べられる生徒は誰一人として存在しなかった。

噂というのは得てしてそんな感じで曖昧なもの。

そうやって楽しむのが正解で、大抵の場合はその方が望ましいと私も思った。