黒尾くんのセオリー【黒尾鉄朗】 (ページ29)

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第２９話　うぬぼれページ29

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『お似合いカップルの邪魔しちゃって』

黒尾くんの言葉に、胸が詰まった。

そんなこと、言わないでよ。

じゃあ、何で、私に彼氏がいるってわかってて、送ってくとか言ったの。

何で、“覚悟しといて”なんて言ったの。

黒尾くんの気まぐれのせいで、頭の中はぐちゃぐちゃだ。

やっぱり、私の自惚れだったんだ。

黒尾くんが私に良くしてくれてるのは、たまたま、席が近くになったからであって、それ以上でも、それ以下でもない。

特別な意味なんて、きっと何一つなかったんだ。

目の奥がじわじわと熱くなって、不意に、涙が溢れそうになった。

何で、今さら。

気づいちゃったんだろう。

数ヶ月前から付き合ってる彼氏よりも、たった２ヶ月、席の前後で過ごしただけの君に夢中になって。

いつも余裕そうな表情で私を見つめて、意地悪く笑って、大好きなレモネードを差し入れてくれる君のことが、頭から離れなくて。

こんなにも、好きになってたなんて。

鼓動が速くなって、そのせいで心臓が痛かった。

目の奥はまだずっと熱かった。

荒くなった呼吸を鎮めるように、瞬きをたくさんして、ゆっくり息を吸った。

「じゃあね、お二人さん。俺もそろそろ戻んねーと」

黒尾くんがひらりと手を振る。

待って。

まだ、行かないで。

引き留めたかったけど、隣にいる彼氏の姿を見て、咄嗟にその手を引っ込めた。

「わ、私も、帰ろうかなぁ」

当たり障りなく言ったはずの声は、自分でもわかるくらい、震えていた。

早く、帰らなくちゃ。

一人になりたい。

そう思った私の耳に、彼氏の静かな声が届く。

「仲良いんだね、アイツと」

その言葉に、思わず足を止めた。