黒尾くんのセオリー【黒尾鉄朗】 (ページ28)

今日:3 hit、昨日:116 hit、合計:137,618 hit

第２８話　口先だけページ28

．

「そ、そう。そうなの」

たどたどしさが滲まないように、作り笑いを浮かべた。

黒尾くんのおかげで助かった。

相手は私の彼氏なのに、今の私は本当にどうかしちゃってる。

たしかに好きだった彼氏よりも、隣に立つ、君の体温に身を任せてしまいたい。

そう思いはじめるくらいには、揺れてるの。

背中に触れた黒尾くんの手の温もりはすぐに消えてしまったけれど、私の心臓はそれに反してぎゅうぎゅう疼いた。

たくさん、別れの言葉が頭に浮かんだ。

それと、黒尾くんが私にくれる、甘いセリフと嘘くさい笑顔も。

黒尾くんは今、どんな顔してるんだろう。

そっと見上げると、黒尾くんは図ったようにふわりと目を細めた。

ほら、また。

そんな顔しちゃってさ。

黒尾くんには彼女がいるのに、私の心は、あなたの全てに勝手にときめいて、制御が効かなくなって、暴れだす。

どうしたものかと肩を落とした私の頭の上に、黒尾くんのあっけらかんとした声が降ってくる。

「悪いね、お似合いカップルの邪魔しちゃって」

思わず顔を上げた。

欲しいのはそんな言葉じゃない。

黒尾くんなら。

あなたなら、実はわかってるんじゃないの？

だけど、やけに明るくそんなことを言うから、何も言えなくて、私はそっと目を逸らした。

わかんないよ。もう。

今までの全部、私の思い過ごしなの？