第23話 二人きり ページ23
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「じゃあ、私、帰るね。これ、ありがとう」
抱えた忘れものを少し掲げて合図する。
体育館を後にしようとしたそのとき、『待って』と、黒尾くんが私の手首を掴んだ。
ドキンと胸が大きく跳ねる。
平常心、平常心と思って隣を見上げると、相変わらず捉えどころのない表情をした黒尾くんと目が合った。
「送ってく」
「練習は?」
「大丈夫。少しなら問題ない」
『さっ、行こうか』と、黒尾くんは私の手を引く。
それから、私が体育館から出たのを見計らうと、バタンと早急に扉を閉めた。
遠くから微かに聞こえる、野球部やテニス部の人たちの声以外には、何にも聞こえない。
黒尾くんの手が、ゆっくりと離れていく。
その熱を名残惜しむみたいに、彼を見つめてしまって、でもすぐに恥ずかしくなって目を伏せた。
心臓の音が聞こえちゃわないかと、ソワソワしてる私に、黒尾くんは優しい声で言う。
「どうした、そんな固まって」
「えっ、ううん。何でもない」
『行かないの?』と尋ねると、黒尾くんは扉付近の階段に腰掛け、隣に座れと合図した。
ドキドキしながら、その隣に座る。
少し間を空けてると、黒尾くんは何も言わずにその距離を詰めた。
わっ…と、心の中で言った。
たぶん、声にも出てた。
机と机を隔てた距離とは訳が違う。
気を抜けば、肩が触れてしまうような距離で、その体温を感じてしまえば、おかしくなってる私の心臓は、さらにおかしなことになってしまうのに。
あなたは何もわかっていない。
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pomme(プロフ) - 処刑人さん» ありがとうございます🫶🏻🧚🏻♀️🫶🏻 (2月24日 11時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
処刑人 - ちゅき♡ (2月24日 1時) (レス) @page48 id: 7578fd3293 (このIDを非表示/違反報告)
pomme(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます🙏🏻🥳 (12月25日 19時) (レス) id: 13950c2c2a (このIDを非表示/違反報告)
かおり(プロフ) - きゅんきゅんします💕続き楽しみにしております✨ (12月25日 5時) (レス) @page44 id: bad28e8810 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pomme | 作成日時:2023年8月7日 23時