黒尾くんのセオリー【黒尾鉄朗】 (ページ3)

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第０３話　初めてのページ3

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眠い眠い、午後の授業中。

忘れ物をしたとかで、先生がどこかに消えたときのことだった。

いつもは寝てるか、ペンを回している黒尾くんが、私の背中を指でつついたのだ。

驚いて肩を震わせると、黒尾くんはクスクス笑った。

「A、ビビりすぎ」

あ、名前。

初めて呼ばれたかも。

黒尾くん、私の名前、認識してたんだ。

なぜ彼が話しかけたかということよりも、そっちの方が気になった。

「何？どうしたの、突然」

振り返ると、当然、視線がぶつかる。

長めの前髪。

ツンツンの後ろ髪。

後ろ髪って何。合ってんだっけ。

私を真っ直ぐに見つめる、切れ長の目。

控えめに上がる口角。

端正な顔立ち。

それと、何とも言えない色っぽさ。

かっこいいなぁ、黒尾くん。

だから何でも許されちゃうんだ。

首を傾げながら、彼の整った顔面を凝視した。

「……黒尾くん？」

「レモネード、好きなんだ？」

「えっ？」

「それ、いつも飲んでるよな」

「たしかに、飲んでるかも」

これが、私と黒尾くんが初めてまともに言葉を交わした瞬間だ。

黒尾くんの前の席に座って５日目。

初めての会話は、レモネードを好きで飲んでいるかの確認。

何の意味もない。

特別なことも、何もない。

私にレモネードを差し入れてくれるなんてことも、もちろんない。

それでも、あの黒尾くんが私に声をかけてくれたことが何となく嬉しかった。

相変わらず掴めないし、捉えどころがないところは、いつもと同じだった。