黒尾くんのセオリー【黒尾鉄朗】

第１９話　気まずい ページ19

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“何でもない”って、そんなのずるい。


それ以上、なんにも訊けないじゃん。

心の中で、こっそり愚痴った。



５月最後の日。


１日の終わりを知らせるチャイムが鳴っても、黒尾くんはどこかよそよそしかった。


私は少しだけ後悔した。


なんてことない冗談言って笑って、いつもの私たちに戻ることだってできたはずなのに。


何か言えばよかった。

気の利いたセリフでなくたって、何か一言くらい。


帰り支度をする私に、黒尾くんは『じゃあ、また明日な』と、顔も見ずに言ったあと、足早に出て行ってしまった。



はぁ…と、ため息をつく。


何なの、その態度。


まるで私が悪いみたいじゃん。


約半日、黒尾くんと話せなかったくらいで、胸のあたりが勝手にミシミシと痛み出す。


どうかしてる。

ほんとに、こんなの超おかしい。


けど、頭の中は黒尾くんのことでいっぱいだった。


気まずそうな横顔や、いつもより少しトーンの低い声。


悪くないのに、やっぱり私が悪いことしたみたいに思えてくる。


どうすればいいんだろう。


部活中の体育館に押しかける……？


んなまさか。そんな勇気、あるわけない。


仮に、体育館に忘れ物してるとかそういうことがあるなら別だけど。……え……あ、まって。

……あった…かも。


荷造りしかけた手が止まった。


私、忘れてる。


体育館に。

タオルとか、水筒とか。

今日のラスト、体育館でバスケの授業をしたときに持って行ったやつ。


うわぁ、どうしよう。


行く？

行っちゃう？

いや、まって。でも、ちょっと。


そうやって頭の中では渋ってるのに、身体は勝手に体育館へ向かっていた。

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