黒尾くんのセオリー【黒尾鉄朗】 (ページ17)

今日:14 hit、昨日:116 hit、合計:137,629 hit

第１７話　好みの話ページ17

．

明日から６月。

バレー部には、梅雨は関係ないらしい。

何かのタイミングで黒尾くんが言ってた。

同時に、雨が好きだとも言っていた。

「雨好きなの、めずらしいね」

思わずそう言呟くと、『雨音って落ち着くだろ』と、意外な返答が返ってきた。

雨音に耳を傾ける…みたいな風流なこと、全然しそうにないのに。

「川のせせらぎ的なのも良いよな」

黒尾くんが顎に手を当て、何かを思い出すようなそぶりを見せる。

「私、あれが好きかも。まな板で何か切るときの音とか」

「あ〜、たしかに。いいね、それ。……雨の日に川の近くで料理すると最高ってことか」

黒尾くんが冗談ぽく笑う。

目尻に微かに寄るシワに、私は少しだけドギマギした。

またひとつ、黒尾くんに関する新しい知識を手に入れてしまった。

自分の彼氏の好きな天気すら知らないのに。

黒尾くんのことに至っては、天気どころかそれ以上にいろいろ知ってしまっている。

好きなお菓子。

雨の音と川のせせらぎ。

黒尾くんの笑顔のバリエーション。

きっとお世辞だろうけど、私の雰囲気も好きって言ってた。

黒尾くんの好みを知れば知るほど、もっと見つけてみたくなる。

いろんな表情を見てみたいなんてことも、思ってしまう。

私は少しずつ、おかしくなってる。

黒尾くん。

あなたのせいで。

ゆっくりと息を吸って、彼の切れ長の目に視線を送った。

「……黒尾くんの声も、落ち着く…かも」

「そう？ありがと」

黒尾くんは少し笑って、私と目線を合わせる。

それから、『なら、いっぱい喋んなきゃね。Aのために』と口角を上げた。