黒尾くんのセオリー【黒尾鉄朗】 (ページ12)

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第１２話　少しの嘘ページ12

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『最近、楽しそうだよね。何か良いことでもあった？』

ある日、堅物の彼氏にそう言われたとき、無意識に頬がピクリと動いた。

「そう…かなぁ」

「うん。前より笑顔が増えた気がするね」

『僕がいるから……なんてね』と、彼が笑う。

『そうかも』と笑って返しながら、私の意識は隣にいる彼からは遠ざかっていた。

そして、私の脳みそは、日々の黒尾くんとのあれこれを勝手に反芻した。

やめてくれ。

そう否定しても、頭の中に広がるのは、黒尾くんの眠そうな顔や、私の名前を呼ぶ柔らかな声色ばかりだった。

「そういえば、面白いドラマ見つけて今超ハマってるから、それもあるかも」

当たり障りのない嘘をつく。

なるべく普通に。

黒尾くんみたいに、普段通りを装って。

彼は『へぇ、そう。僕にも教えてよ』と、何の疑いも持っていないようだった。

そんな彼を尻目に、ほっと胸を撫で下ろす。

そう思ってハッとした。

ほっとするって、何。

良くない。

私の理論じゃ、道理に反する振る舞いだった。

これって、俗に言う、浮気の始まり？

脳内に浮かぶ、不穏な疑問。

やだやだ、違うよ。

私のこれはそういうんじゃない。

私は違うと、必死に振り払った。

自由すぎる黒尾くんに振り回されてるだけだから。

私は、この堅物彼氏と幸せにならなくちゃ。

彼が私のことを大切にしてくれていることを、私はちゃんとよく知っている。

今、右手に感じる温度も、ちゃんと握りしめてるし、ドキドキしてる。

あなたのことを想ってる。