56.昔話 ページ16
「…余裕なんかあるかっちゅーねん」
視界が暗くなったと同時に、章大の腕の中にいる自分に気付く。
ぎゅーって強く腕が背中に回って、自分の心臓の音と、もう一つ違う章大のリズムがダイレクトに伝わった。
「余裕、ないの？」
「ないて。やって、明日になったらまた離れ離れやん。キスしたい時に出来んのも、抱き締めたい時にこう出来んのも、あとちょっとやろ？」
夏休みは１週間。明日の午後の飛行機で、あたしは東京へ帰る。考えないようにしてたけど、そうもいかない現実。
「そう思ったら、余裕なんてないねん。キスしたい思ったら躊躇してられへん。我慢しとったら後悔するもん」
ぎゅーってしながら苦しそうに息を吐く章大は、確かに余裕がなさそうに思えた。
「照れてる場合じゃない、ってことか」
「A照れてたん？」
「…そりゃ、まあ」
章大は、ちょっと笑ってからあたしの頭を撫でた。
「朝飯、食おか」
「…ん。お腹すいた」
お皿に移されたグルクンは、赤からキツネ色になって美味しそう。
すっかり味噌汁を作るのを忘れて慌てて2人でインスタントのものを用意したりして。
「いただきます」
2人で手を合わせる。
初めて食べるグルクン。
「美味しい…」
「せやろー？」
なんとも言えない幸福感で、つい、鼻の奥がつーんとした。
「どした？骨刺さった？」
「だいじょーぶ…めちゃくちゃ美味しい」
ニコニコしてたかと思ったら、そんな心配そうな顔して。
ずっとあたしのこと見てるから、泣きそうになるじゃん。
「そーいえば、昔大学の学食で魚の骨喉刺さったぁ言うて大騒ぎやったなぁ」
「え、そうだっけ？いつ？」
「んーと、２年やったかなぁ？夏にさぁ、丸とカズヤとカナミちゃんと。あれ何やったっけ？クワガタ採りいこー言うて大学の裏山行った後？」
「あー！結局クワガタ居なかったよね！」
確か、章大がギター丸ちゃんがベースで同い年のカズヤがドラム、後輩のカナミがボーカル、あたしがキーボードの編成で学祭用に組んだバンドで。
夏から学祭に向けて練習してたんだっけ。
誰の発案か、突然クワガタ採りに行った夏真っ盛り。
練習しないでくだらない遊びをしてることも多かったけど、ただただ笑えて毎日が楽しかったな。
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みき(プロフ) - 夏休み編、完結おめでとうございます！おだやかな気持ちで東京に戻れて良かったです〜！新しい章も読んできます〜！ (2021年5月9日 16時) (
レス) id: c6ee858f5f (このIDを非表示/違反報告)
菜々実(プロフ) - みきさん» コメントありがとうございます！有休をまとめて消化したら、ついつい気持ちが緩んでしまってます 笑。これからお話の方も完結に向けて進めていきたいと思いますので、もう少しお付き合い下さい♪ (2021年5月9日 11時) (レス) id: 9f8e96caad (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 更新ありがとうございます！嬉しいです♪お仕事もお疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね。主人公の気持ちが痛いほど感じられて、切なくて涙が出そうになりながら読んでいたら、章大くんの気持ちも知れて…ホッとしました〜！！ (2021年4月15日 3時) (レス) id: c6ee858f5f (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 竜宮城のようなゲストハウス、素敵な絵が目に浮かびます！ボク。ともリンクしているのもすごいなぁと。インスタも始まり、チェックするものも多くなってきてますよね(^◇^;)そんな中でも更新ありがとうございます。続きも楽しみにしています♪ (2021年1月31日 14時) (レス) id: c6ee858f5f (このIDを非表示/違反報告)
菜々実(プロフ) - みきさん» お返事が遅くなってすみません！2人は翌日に離れ離れなのに、私が書くの遅過ぎてすごい遠そうな気がしてきました 笑。現実世界に全く追いつきませんが、ぜひ続きも楽しみにしていただけると嬉しいです！ (2020年12月21日 18時) (レス) id: 9f8e96caad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：菜々実
| 作成日時：2020年10月16日 20時
