8.お願いごと ページ8
「絵、ありがとね。空港でくれたアレ」
「あ、どうやった…？」
少し不安げに、あたしの顔を覗き込む。
「嬉しかった、すごく」
「よかったぁ…」
「あたしってあんな感じなんだねー」
「そやで？俺の目に映るA」
「章大の目に映るあたしねぇ」
章大が出発前に渡してくれたスケッチブックには、色んな表情の、自分じゃ見たことのないあたしが描かれてて。
びっくりして。照れ臭くて。嬉しかった。
それから、黒鯛を半身お刺身用に切っていく章大の横で、アジを揚げる。
残りの黒鯛は冷凍しておいて塩焼きにすることにした。
「おいしそー…」
「新鮮やからぷりっぷり！」
「いただきー！」
「あ！コラ！摘み食いアカン！」
「美味しい！！」
「ほんま！？」
「あ、自分だって摘み食いしてんじゃん！」
あははーって笑いながら、お皿に盛り付ける。楽しい。
唐揚げもこんがりいい色に揚がって、章大がダイニングテーブルに運んだ。
「ビールでいい？」
「お、ええねー、頂くわ」
冷蔵庫からひんやりしたビールを取り出して、グラスに注ぐ。
しゅわしゅわと音を立てる金と白のコントラストは、急に喉の渇きを思い出させるから不思議。
「乾杯！」
「かんぱーい！……あーうまっ！」
ごくりごくりと、章大の喉が動く。
顔いっぱいで笑う章大は、大学の頃と同じ可愛らしいままなのに、髪型のせいなのか痩せて筋張った首筋のせいなのか、妙に色気がある。
可愛いのに色気があるとか、ズルいでしょ。
「…ん？なに？」
やば、見てるのバレた。
「なんでも？」
ちょっと気まずくて目を逸らしたら、章大がくすっと笑った気配がした。
「いつ向こうに帰るの？」
「明日には帰るよ」
「…ちょっとしか居ないんだ」
「明後日の朝、漁の手伝いする約束しててん。追い込み漁！凄いんやでー？」
生き生きとした顔の章大に、ホッとする反面。
知らない章大の日常に寂しさも感じる自分がいる。
「今日、どこに泊まる予定なの？」
「あー、丸んとこ行こ思って連絡してあるよ」
「そっか」
「まあ…そのぉー…」
アジの唐揚げをサクリと齧りながら、あたしをちらりと見る。
上目遣い…。
「正直なとこ、このままAんとこ泊まりたいかなあて思ってんねやけど…」
何かお願い事をする時の章大の癖。
ちょっとだけ、声が高くなる。
「だめ？」
「いいよ」
「やった！そしたら丸にLINEしとこー」
「LINEで振られる丸ちゃん！」
「ええよ丸は！俺はAがええもん」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 430人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
菜々実(プロフ) - みきさん» ありがとうございます！主人公の夏休みから始まるパート2をぜひよろしくお願いします♪ (2020年10月11日 21時) (
レス) id: 9f8e96caad (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 更新ありがとうございます。主人公の不安な気持ちがリアルに伝わってきます。雅紀先生も素直で純粋で…章大くんは気付いてるのか…いよいよ再会ですね！続きが楽しみです！ (2020年10月9日 21時) (レス) id: eb998853f9 (このIDを非表示/違反報告)
菜々実(プロフ) - あおさん» あおさん、ありがとうございます！長らくお休みをしていたので、なかなか思うように書けませんが、ぜひまたお付き合いいただけると嬉しいです！ (2020年9月19日 17時) (レス) id: 9f8e96caad (このIDを非表示/違反報告)
菜々実(プロフ) - みきさん» 短編もお読み頂きありがとうございます！のんびりの更新になりますが続きもぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです！ (2020年9月19日 17時) (レス) id: 9f8e96caad (このIDを非表示/違反報告)
あお(プロフ) - ずっとずっと待ってました、新しいお話うれしいです (2020年9月13日 16時) (レス) id: c3910aa6c0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：菜々実
| 作成日時：2020年7月18日 0時
