39.自己暗示 ページ38
「実は俺、遠距離してたことあるんだけどね？あ、すいませーん！」
雅紀先生が店員さんを呼びながら言った。
「えっと、ウーロンハイ１つ下さい」
「遠距離って、最近？」
「学生の頃。2つ上の彼女で大学の先輩だったんだけど、地元の東北で就職してさ。遠距離ってだけじゃなくて社会人と学生ってこともうまくいかなくなった原因だったのかもって今は思うんだけどさ」
「うん」
「やっぱ会えないって辛かったなぁって。A先生は辛くないの？」
運ばれてきたジョッキに口をつけて、ごくりごくりと流し込む雅紀先生の横顔が綺麗で、章大の横顔を思い出した。
会いたい。
「大体電話するときはビデオ通話だから、毎日のように顔見てるんだよね」
「最近はそっか。学生の頃はみんなガラケーだったしなー…」
「顔は見れるけど…直接会いたいと思うことはある、やっぱり」
「だよね…」
「不安も、ほんとはゼロじゃない…かな」
「うん」
真剣な顔であたしの話を聞く雅紀先生は、喧嘩した子ども達の話を聞いてる時と同じ顔してる。
「…あは」
「え！なんで笑うの！」
「雅紀先生に愚痴聞いてもらっちゃった」
いつでも聞きますから！って得意げな顔して頷いてる。
「ありがとうございます。…ま、愚痴っても不安がっても自分が余計しんどくなるっていうか。会えない間に何をするか、現状をどうやって前向きに過ごすかって考えた方がいいかなって思ってるかな」
「すげー」
「そうかなあ」
「うん。俺はそれができなかったし。でも…」
「でも？」
「ほんとにしんどい時は、ちゃんとそういう自分も否定しないで大事にしてあげて？」
歓迎会からの帰り道、頭の中では雅紀先生の言葉がぐるぐる回ってた。
「自分を大事に、か」
いつもの公園は、誰もいない。
なんとなく寄り道したくなって、ベンチに座った。
夜はまだ少し涼しくて、ひんやりとした空気がアルコールで火照った体にちょうどいい。
目の前のクヌギの木。
１年前の今頃、仕事に疲弊したあたしのところに章大はヒーローみたいにやって来た。
ヒーローみたいだと思った次の瞬間には、あの木の下で少年みたいにカブトムシの幼虫を応援してたっけ。
ぎゅーっと胸が苦しくなる。
会えない寂しさも、いつ戻ってくるのか分からない不安も、前向きにって自分にかけた暗示で誤魔化して見ないようにしてたのかな。
ポケットからスマホを出すと、画面に章大からのLINE。
画像？
「わ…」
開いた画像に思わず声が漏れた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 430人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「関ジャニ∞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
菜々実(プロフ) - みきさん» ありがとうございます！主人公の夏休みから始まるパート2をぜひよろしくお願いします♪ (2020年10月11日 21時) (
レス) id: 9f8e96caad (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - 更新ありがとうございます。主人公の不安な気持ちがリアルに伝わってきます。雅紀先生も素直で純粋で…章大くんは気付いてるのか…いよいよ再会ですね！続きが楽しみです！ (2020年10月9日 21時) (レス) id: eb998853f9 (このIDを非表示/違反報告)
菜々実(プロフ) - あおさん» あおさん、ありがとうございます！長らくお休みをしていたので、なかなか思うように書けませんが、ぜひまたお付き合いいただけると嬉しいです！ (2020年9月19日 17時) (レス) id: 9f8e96caad (このIDを非表示/違反報告)
菜々実(プロフ) - みきさん» 短編もお読み頂きありがとうございます！のんびりの更新になりますが続きもぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです！ (2020年9月19日 17時) (レス) id: 9f8e96caad (このIDを非表示/違反報告)
あお(プロフ) - ずっとずっと待ってました、新しいお話うれしいです (2020年9月13日 16時) (レス) id: c3910aa6c0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：菜々実
| 作成日時：2020年7月18日 0時
