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突然繋がれた手を引っ張った彼は、私を自分の前に移動させて。
一瞬のうちに私の身体は、後ろから伸びてきた大きな両腕に包まれた。
さっきとは比べられないくらい、暖かかった。
暖かすぎて、視界が潤んでいった。
前に回された腕を、私も抱きしめ返したかったのに。
それさえも出来ないくらい、私の身体はきつく包まれていた。
どうして彼がこんなことをしてくれるのか。
どうして彼はこんなことをするのか。
私だって、そこまで馬鹿じゃない。
馬鹿じゃない、けど。
期待に満ちたそれは、この先の未来に繋がることなんてなくて。
私と彼の交わる未来は、明日で終わりだから。
「……忘れませんっ…絶対」
ロー「…あァ」
「あなたと…あなた達と、過ごしたこの数日は…私にとって、″全て″だからっ…何もかも全部、忘れたくないですっ…」
ロー「…安心しろ。俺も覚えててやるから」
「…っ、」
ロー「お前だけが覚えてなくていい。俺も、あいつらも…全員、この数日のことは忘れたりしねェから」
彼らの今までの航海。
そして、これからの航海。
その中の、たった数日間しか一緒にいられなかったけれど。
せめて、時々でいいの。
あぁ、そういえばあんな奴もいたなぁって。
生きてるかな。元気にしてるかなって。
ただ、それだけでいいの。
あなたの記憶の中に、ぽっと私が浮かぶ瞬間があるのなら。
もう、それだけで充分だ。
ズルズルと座り込んだ彼に合わせるように、私の身体も包まれた体制のまま座り込んだ。
きっと、静かに流れた私の涙は、あなたの腕にポタポタと落ちていただろう。
その度に身体にぎゅっと力が込められるのは、多分勘違いじゃなかったと思う。
この時初めて、自分のことを″憎んだ″。
この腕の中から離れたくないのに…
もっとずっと、ずっと彼と一緒に航海をしたいのに…
″何も持っていない″私が、彼の航海に着いていけるはずがない。
いつかきっと彼は、私を重荷に感じる日が来るはず。
結局のところ、″彼の期待に応えられない自分″が、酷く憎らしかった。
ロー「…無茶はするなよ」
「っ、はいっ…」
ロー「変な男にも着いて行くな」
「…はい…っ、」
ロー「…出来れば毎日、笑ってろ」
『その顔が、俺は…』
そこから彼は、何も言わなかった。
何も言わない代わりに、ただずっと、私を抱きしめたまま離れることはなかった。
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REI(プロフ) - ひかりさん» ひかりさん、ありがとうございます(*´-`)甘々ローさん大好きでよかったです!続編も頑張りますのでよろしくお願いします(๑˃̵ᴗ˂̵) (9月23日 12時) (レス) id: 9412439390 (このIDを非表示/違反報告)
ひかり(プロフ) - 続編おめでとうございますー!!!大好きな作品がまだまだ見れるということに歓喜しております笑甘々ローさん大好きです!!これからも更新頑張ってください!! (9月23日 8時) (レス) @page50 id: 4dc97dea49 (このIDを非表示/違反報告)
REI(プロフ) - ひかりさん» ひかりさん、コメントありがとうございます☺️私には勿体無いくらいのお言葉を頂けて、物凄く嬉しいですっ😭❤️これからもご期待に添えられるよう頑張りますのでよろしくお願いしますっ🥰 (9月19日 13時) (レス) id: 9412439390 (このIDを非表示/違反報告)
ひかり(プロフ) - 私ローさん好きなんですが、最近作品を読み尽くしてしまって探していたところにこの作品に出会えました😆読みやすく、とても好みな作品で愛読しています!評価、お気に入り登録当たり前体操です👍🏻身勝手ながら応援してます!更新頑張ってください! (9月19日 7時) (レス) @page19 id: 4dc97dea49 (このIDを非表示/違反報告)
REI(プロフ) - 零尉さん» 零慰さん、いえいえ、ややこしいことをしてしまいこちらこそ申し訳ありませんでした🙇♀️暖かいお言葉までありがとうございます😭 (9月15日 23時) (レス) id: 9412439390 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:REI | 作成日時:2023年9月3日 22時