第三十五回 ページ36
「A！」
私はゾムの左手を掴もうと、ようやく足を動かす。
ありがとうゾム。事情は後で話すから。
そう言って、伸ばされている手を掴んだ。
……いや、掴まれた。
目の前に紅いハチマキがはためく。
この手の掴み方。後ろ姿。
私はこの背中を知っている。だってずっと見てきたから。
「トントン！」
「はよ走れ！このままだと負けるで！」
『おおおおお！二組が追い上げている！速い！速いぞ！続いて五組も走り出しました！熱い展開になってきました！これは二位三位の争奪戦です！』
「トントン速い！速いって！」
「もっと足動かせ！転ぶからな！」
「な、何よそれ！」
歓声と砂を蹴る音、それと心臓の音がうるさい。学ランのトントンはさぞ目立つから、きっと注目されてるんだろうな。
『さあいよいよ一組が最終コーナーを曲がったぞ！続いて二組、すぐ後ろには五組だ！勝負は直線！一組このまま逃げ切れるか！』
「もっと近く寄れ！走りにくい！」
……それ、私が邪魔ってこと？お荷物ってこと？
「……って」
私は掴まれている腕を振り払う。トントンは驚いたようにこちらを振り向く。
「な、何して」
「私だって！」
トントンの左手を掴み、トントンの隣に並び出る。
「トントンの隣くらい走れるようになったんだから！！」
いつまでも後ろを追いかけているだけじゃない。今だって無我夢中に走り続けている。けれども、ほんの一瞬肩を並べることくらいなら。
「……は、っはは！なんやそれ！」
「うるさい！いいから走るよ！」
「ラストスパートや！転ぶなよ！」
「こっちのセリフだからそれ！」
がむしゃらに走る。走る。走って、走り抜けてーー
『全ての組が今ゴールをしました！会場は大歓声で盛り上がっております！
……ただいま結果が入ってきました。五位、四組。四位、一組。三位……五組！』
トントンと顔を見合わせる。
『二位、二組！素晴らしいラストスパートでした！ちなみに二組のお題は【貴方が一番信用している人】です！』
『どの組も面白……ええ、会場を盛り上げてくれましたね。それでは会場の皆様、次の競技で午前の部は最後になります。じゃあ後はロボロよろしくな』
切れた息を整える。久しぶりにあんなに走った。キツイ。暑い。足が痛い。
膝に手をついている私の隣で、額の汗を拭うトントン。
「……やったな」
「やったね」
他に言葉はいらなかった。
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さとうきび(プロフ) - 天ーてんーさん» コメントありがとうございます！今回は作品の中で唯一の純愛モノになっているので、最後まで読んでいただけると幸いです！ (2019年3月27日 23時) (
レス) id: a9eb261853 (このIDを非表示/違反報告)
さとうきび(プロフ) - かっぷけーきさん» 一年越しのコメント返し、大変失礼しました。コメントありがとうございます！これからもどうぞご贔屓に、よろしくお願いします！ (2019年3月27日 23時) (レス) id: a9eb261853 (このIDを非表示/違反報告)
天ーてんー(プロフ) - 初めてコメントさして頂きます。天ーてんーです。いや〜ほんまもう....しんどい。うん、しんどいですわ。言葉で表現するのが難しいほどに好きです。更新頑張ってください！楽しみに待ちますので(*^^*) (2019年3月24日 19時) (レス) id: 0db831385a (このIDを非表示/違反報告)
かっぷけーき - こんにちは。「その娘、我々の狐と踊る」でもコメントさせて頂きました、かっぷけーきです。神秘的な空間とは打って変わって甘酸っぱい青春の感じ、本当にはまりました！これからもさとうきびさんの作品楽しみにしています！頑張ってください！ (2018年3月25日 12時) (レス) id: 7858810c59 (このIDを非表示/違反報告)
さとうきび(プロフ) - つさん» 少女漫画くらいの甘酸っぱさが出来ればなー、と思いながら更新しています。コメントありがとうございました！ (2018年2月23日 21時) (レス) id: d7a52c799a (このIDを非表示/違反報告)
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