第二十九回 ページ30
近い、近い近い近い……！
トントンは扉の方をじっと見ているが、私の脳内はそれどころではない。
爽やかなシャンプーの匂い、白手袋越しに伝わる指の形、密着している足。どれもが私の顔を赤くさせるのに十分だった。
「Aー？どこに居るんー？」
「……トント」
「しー……」
人差し指の口に当てるトントンの横顔に何も言えなくなる。かっこいい。なんかずるい。でもかっこいい。
近づいてくる足音。その音はついに部室の扉の前で止まった。ドアに着いているガラスが影をつくる。
「あったでーA。……もしかしてまだ中にいるん？聞こえてるー？」
「……どうした大先生。Aはここに居ないでー」
「あれ？トントンなんでここに？」
私は必死に息を殺す。見つからないで。お願い……！
「学ランに着替えてたー。それよりなんかあったん？」
「いや、Aとブルーシート探してたんやけど、見かけてない？」
「知らんな。多分他のところさがしてんとちゃう？」
「そか。じゃあ俺行くから、見かけたらあったでーって言っておいてな！」
「はいよー」
……遠ざかる足音。ごめん大先生、騙すような真似して。
しばらくして、ようやく白手袋が離れた。入ってくる新鮮な酸素に口を開けながら呼吸を整える。
向き直るトントン。あまりの顔の良さに目が潰れそうだ。
「さっきの言葉」
「……え？」
「だから、さっきの……」
ぶわ、と一気に耳まで熱が走る。
「……かっこいいって言葉、期待してええの？」
だって、そんな声聞いたことない。
いつもより低くて、近くて、耳元でそっと聞こえる声に、私はくらりと脳が煮え立つのが分かる。
「なあ、どうなん？」
「……っ」
「それとも、そういう言葉は誰にでも言うん？そこらの奴にいつも行ってるん？」
「ち、ちが、言ってなんか」
「じゃあ俺だけなん……？」
「っん、や、声……ちか、いっ……」
背中にぞくぞくぞく、と電流が走る。足がおぼつかなくて、何かにすがろうと手が空中をさまよい、トントンの背中の布を掴む。
「……A」
「〜〜〜っ……！」
もうダメだ。何も考えられない。そんな声で名前なんか呼ばれたら死んじゃうって。
ひいひい言う私を見て、トントンはようやく離れてくれた。
「大丈夫か？」
「だ、だいじょぶ、ぅう……」
「なんか塩分、あ、飴、口開けて」
ぼんやりとした頭のまま口を開けると、舌にじゅわりとした塩味が広がる。どうやらトントンは私が熱中症になったと思っているらしい。
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さとうきび(プロフ) - 天ーてんーさん» コメントありがとうございます！今回は作品の中で唯一の純愛モノになっているので、最後まで読んでいただけると幸いです！ (2019年3月27日 23時) (
レス) id: a9eb261853 (このIDを非表示/違反報告)
さとうきび(プロフ) - かっぷけーきさん» 一年越しのコメント返し、大変失礼しました。コメントありがとうございます！これからもどうぞご贔屓に、よろしくお願いします！ (2019年3月27日 23時) (レス) id: a9eb261853 (このIDを非表示/違反報告)
天ーてんー(プロフ) - 初めてコメントさして頂きます。天ーてんーです。いや〜ほんまもう....しんどい。うん、しんどいですわ。言葉で表現するのが難しいほどに好きです。更新頑張ってください！楽しみに待ちますので(*^^*) (2019年3月24日 19時) (レス) id: 0db831385a (このIDを非表示/違反報告)
かっぷけーき - こんにちは。「その娘、我々の狐と踊る」でもコメントさせて頂きました、かっぷけーきです。神秘的な空間とは打って変わって甘酸っぱい青春の感じ、本当にはまりました！これからもさとうきびさんの作品楽しみにしています！頑張ってください！ (2018年3月25日 12時) (レス) id: 7858810c59 (このIDを非表示/違反報告)
さとうきび(プロフ) - つさん» 少女漫画くらいの甘酸っぱさが出来ればなー、と思いながら更新しています。コメントありがとうございました！ (2018年2月23日 21時) (レス) id: d7a52c799a (このIDを非表示/違反報告)
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