春の匂い.5 ページ39
あの後無事に戦争は終結。他国への派遣や支援の為の軍事力だけを残して軍は解体。みんなそれぞれの道へ進んだ。
故郷に帰った人、店を構えた人、放浪の旅に出た人、あるいは軍に残って次世代の指導を続ける人。歳をとって丸くなったが、会う時は変わらずはしゃいでいて、あの日々は決して無くならないんだと実感した。
五年だ。
戦場で出会って、付き合って、戦争が終わるまで。長かったようで、振り返ると案外短かった気がする。それでも濃い年月は私にとってかけがえのないものだった。
「なーにしてんの？」
肩越しに覗き込んでくるのはシャオくん。髪をセンター分けにした彼は随分大人びたような見た目になったが、本人曰く『老け』らしい。
私は表紙を閉じてシャオくんの頬にキスをすれば鼻に返される。くすぐったくて笑えば面白がってまたキスをした。
「日記読んでたの。掃除してたら出てきて、すっごい懐かしくなっちゃった」
「どんなこと書いてあったん？」
「んー、シャオくんにプロポーズした時の話とか？」
「この話やめよ、はいおしまい」
みんなで集まった時未だに話題になるのはシャオくんのプロポーズ事件で、その話をする度シャオくんがいじけてキレて酔いつぶれるまでがワンセットだ。
「いいじゃん、私は面白いし好きだよ」
「ほんま強くなったなA、そんな子に育ては覚えはありません」
「育てられた覚えもないです」
したたかやなあ、とぼやくシャオくん。
シャオくんと私は町で一年ほどのんびり暮らした後、軍の後方支援で働いている。結局戻って来るんかいとコネシマとトントンに笑われたのは記憶に新しい。それでも働くのは、この平和が続いて欲しいからだ。銃もシャベルも今や軍の記念碑としてガラスの向こうに飾ってある。
出来ることから少しずつ始めたい。そう二人で話し合って決めた。
今もどこかの国では戦争をしている。きっと争いは無くならない。けれどいつか、あの廃墟に花が咲く日が来ると信じている。そのいつかまで、私たちは戦い続けよう。
「明日はどこ行く？」
「そろそろベビーベッドとか買わないとだよねえ。お買い物行こうよ」
「せやな。……あ、今動いた？」
「あはは、パパとママとお出かけしようね」
撃ち抜いたのは貴方のハートです、なんて臭い台詞だ。
けれど春の匂いは近い。
あなたに出会えて本当に良かった。
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さとうきび(プロフ) - えるをん×@×IAさん» コメントありがとうございます！これからも精進してまいります。応援、よろしくお願いします！ (2018年4月5日 22時) (
レス) id: d7a52c799a (このIDを非表示/違反報告)
えるをん×@×IA(プロフ) - とても素敵な作品だなと思いながら読ませていただいている者です。これからも頑張って下さい(´q`) (2018年4月5日 0時) (レス) id: b8e4739678 (このIDを非表示/違反報告)
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