十四話 ページ14
「ゾム様」
「違う」
「ゾム殿」
「駄目」
「ゾムさん」
「なんか違うなあ」
片っ端から却下していくゾムさんは、めちゃくちゃ楽しそうな顔をしている。
というかもうそろそろネタが無くなりそう。
「もっと親しいやつないん、ほら」
ニヤニヤと笑うゾムさん。
本当にどうするよ。私帰れないよ。
親しげのある感じってどんな感じなんですか。
「……ゾム先生」
「そんな感じやな」
「ゾム兄さん」
「んー……、惜しい気がする」
本当に我々幹部の人をこんな風に呼ぶって私に明日は来るのか。
てか他に呼び方ってある？敬意の欠片も見えなくなってるし。
ぐぬぬ、と頭を悩ませていると、ふと浮かんだ言葉があった。
「……ゾム先輩」
諦め半分で言ってみた。
「……お、ええやんそれ」
めっちゃ好評だった。
え、これでいいの？
「本当ですか！？ゾム幹部どーー」
嬉しさのあまり尋ねようとすると、口をゾムさんの手のひらで押さえられる。
「んむ、んん」
「ゾム先輩、やろ？」
キラキラとした若葉色の目で見つめられ、何も言えなくなる。
「……わかりました、ゾム先輩」
「ん、よし」
渋々名前を呼ぶと、よく出来ました、とでも言わんばかりに髪をぐしゃり、と撫でるゾムさん。
「いやあ、やっぱり面白いなあ自分」
未だ頭を撫で続けるゾムさんは、しみじみと呟く。
それより私は明日あたりに首がとびそうでビクビクしている。
ああ、神様。今日は素晴らしく恐ろしい一日でした。どうか明日からも平凡で普通な日々をーー
脳内でお祈りをしていると、体が急な浮遊感を覚える。
「わ、」
「軽いなあ、軍人さんやろ？」
もっと食べた方がええで、と笑うゾムさんだが、今はそれどころではない。
何故かお姫様抱っこ、というものをされているのですがそれは。
「ゾム、先輩。あの、これは一体」
「気に入った！せっかくやし外まで送るわ」
先輩命令やで、と言われればそれまでだが、本当に良いのかこれ。
ゾムさんにされるのはきっと全国民女子の夢だろうけど、私なんかが何故こうなっている！
ぐるぐると考えるうちに、廊下を高速で走りだすゾムさん。子供がはしゃぐようにしか見えない。
ああ神様、私が何をしたのですか。
とても恨みますよ、神様。
「いや、ええもん見っけた」
その呟きは風の音に消されていた。
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