指切り (ページ10)

今日:10 hit、昨日:0 hit、合計:7,451 hit

＊＊＊ページ10

六男百合(びゃくあい)は孤児寺の玄関口で煙管をふかしながら嘆息する。椿が売られたと風の噂で聞いてからまだ一月と経たないというのに、父は孤児寺から子供を引き取った。

大方、孤児寺の子供なら大した金がなくても
養えるとでも思ったのだろう。

確かに、椿を養うとなると庄屋の顔となりうる
ため上質な衣や高価な食物が必要になる。
そこを“奉公に来た少年”に置き換えてしまえば
何を着ていようが何を食べていようが
よほどの事がない限り、父には関係ないのだ。

「だからって……椿も報われませんねぇ…。」

煙管の煙と共に溜め息を吐き出した。
背後から双子の少女達に呼び掛けられる。

「リリイ？」
「リリー？」

彼女達に煙が行かないよう煙管を遠ざけながら
返事をして振り替える。ここの孤児寺の
子供たちは百合のことをリリイと呼ぶ。

百合を“ゆり”と読み、米国の言葉に訳した
のだとアホ毛の彼は得意気に言っていた。

「ねぇ、リリイ。真昼はいつ帰ってくるの？」
「そうですねぇ、まだ帰っては来ませんよ。
さて、昼御飯の用意をしましょうか。」

曖昧にはぐらかしてその場を逃れる。
椿も、兄も、真昼も気の毒ではあるが
自分にはどうしてやることも出来ないのだ。

己の無力さにまた溜め息を吐いて
煙管の中身を揉み消すと、百合は
孤児寺の中へ入って行った。