指切り (ページ8)

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椿の姿が見えなくなり、クロは崩れるように地べたにへたり込んだ。一筋、涙が頬を伝う。

ああ、椿は行ってしまったんだ。
自分は愛する弟一人すら守ってやることが
できなかったのか。

クロは重たい体を引き摺るようにして自室へと
戻って行った。

＊＊＊

火玄の様子が明らかに不審だと気づいた
父親は、椿が庄屋を去るのとほぼ同時に
長男のこれまでの動向を探った。

男衆や女衆から重役に至るまで父親は、
聴き込みをさせ、調べあげた。
切れ切れの情報を繋ぎ会わせていくと
長男火玄と末息子椿は恋仲にあったらしい。

父親は激怒し、火玄に掴み掛かろうかと
思ったが椿を失った喪失感で酷い有り様の
息子を目の前にすると掛ける言葉も
見つからない。

椿が去って四日程過ぎた今日も息子は
縁側で一人、膝を抱えている。
見慣れた着流し姿ではなくここ数日は
長着をペラっと着ただけの浴衣姿だ。
背を丸め、虚ろな目を庭の草木に向けている。

火玄、と呼んでも反応が帰って来ないのは
学習済みだ。試しに、椿の付き人で椿と年も
近かった桜哉に「火玄兄さん」と呼ばせた
ところ火玄は肩を跳ね上げた。

火玄がどんどん生気を失っている。
見かねた父親は桜哉を呼びつけ言った。

「確か百合(びゃくあい)が孤児寺をやっていたな？
そこに行って気に入った若衆を一人、連れて
来てはくれまいか？」
「わかりました。」

父親はこの若者を信用している。
六男の百合もまともな奴だろうから
どうにかなるだろう。