指切り (ページ5)

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翌朝、クロが目を覚ますとクロの腕を枕に眠っていた筈の椿が居なかった。もしやと思い飛び起きると、椿の部屋に向かって駆けだした。

「……椿…」

椿の部屋の手前まで走ったところで椿の名前を呼ぶ。しかし返事の代わりに聞こえてきたのは女の話し声だった。

「こんなに質の良いお着物、今時京の豪商
の娘様でも着ることは叶いませんよ。」
「椿様、とてもお似合いです。」
「…あはは…そう……？」
「ええ、とてもお綺麗です。」

そこまで聞いて、クロは襖を開く。
部屋の中では父親が雇ったのであろう
女衆の二人が椿に着物を着付けていた。

その着物が普通の着物だったらどんなに
よかったか。あろうことかいかにも芸妓、
下手をしたら遊女が着るような女物の着物を
椿は着せられていた。肩口が広く開いていて
色白故に艶やかな鎖骨が覗いている。

不覚にもクロはそれを美しいと、思って
しまった。これでは金を払ってわざわざ
拝みに来るような節操なし共と変わりない。
一瞬でも欲情しかけた自身に吐き気がした。

当の椿は気まずそうにクロの様子をチラチラと
窺っている。椿は女衆が退室するのを見届けると、困ったように笑って見せながら

「兄さん、僕、綺麗？」

と、尋ねた。

「……ああ、綺麗だ……椿……。」

そう言ってやると椿は嬉しさと哀しみが
混ざったような儚い表情を見せた。

「…そう…ありがとう兄さん、嬉しいよ……。」