指切り (ページ17)

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椿の指を滴っている自分の唾液を長着の袖で拭い取ったクロは、それを木箱の中に戻した。木箱を骨董品の棚に入れ、鍵を取る。

懐に紙束と、申し訳程度の金銭が入った
巾着を放り入れて行灯の火を手で扇ぎ消す。

幸いクロは仕事で外に行ったっきりで、
羽織姿だ。然程着崩していない故に
一旅行ってくるくらいならば平気だろう。
そう一人納得して襖を開け放った。

＊＊＊

クロが玄関付近まで長着の裾を蹴るように
歩いて行くと、桜哉が真昼と話し込んで
いるのが目に入った。一瞬、桜哉がこちらに
達観した無機質な目を向けて軽く頷いた。
クロがこれからやろうとしている事が
桜哉には分かっているのだろう。

下駄を突っ掛けようとしたところで、
桜哉との話を半ば逃げるように切り上げ
て来た真昼に羽織の袖を掴まれた。

クロを見上げる大きな瞳は困惑と不安に
揺れている。少しばかり踵を返して真昼に
向き直り、頭を無造作に撫でた。
真昼の髪がぐしゃりと乱れる。

「…あー、…椿が何て言うかな……。
向き合いたくはねーが、いずれは向き合う。」

そう言うと真昼はぱちくりと瞬いて
儚げに笑って応えた。

「……はい！早めに頼みますね。」

今度こそと言わんばかりに素早く下駄を
突っ掛けると、クロは庄屋を後にした。