指切り (ページ16)

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巻き紙を読み終えたクロは半ば放心状態で手元に視線を落としていた。暫くして、我を取り戻すと緩く首を左右に振った。

紙束の横にぽつりと置いてある小包が
視界に入る。巻き紙には何も書かれて
いなかったが中身は何だろうか。
微かな好奇心に背を押され包みを掌に乗せた。

感触と重さからしてちりめんの下は
木箱であろう。ではその中身は…。
包装を剥がして木箱の蓋を持ち上げる。

箱の中身の『それ』を見たクロは
無意識に息を詰めた。椿の思惑の
全てがじわじわと理解されていく。

『それ』を右手の人指し指と親指で
丁寧に口許まで持ち上げると、
綺麗に整えられた爪の先に口づけた。

唇から少し離し、眺める。
母親譲りの縦長で薄い爪はクロと椿が
血縁である事を示す数少ない部分なのだ。

向きを変え、赤黒い断面を舌で掬う。
微かに血の味が舌に残った。

腐る程ではないのだろうが、血の固まった
断面からは椿との距離を感じる。
漆の如く固まった血を溶かすべく
『それ』を口に含む。

椿の左手、小指の先一寸足らず。

面倒臭がって好んで遊郭に向かわない
クロにでも分かる。証明なのだ。

沢山客を取る遊女が本命の相手に
本気で愛しているのは貴方だけ、
と示すための手段なのだ。

あるいは──客の気を引くための手段、
死体の指を切ってそのように見せ掛けている
などと聞いたことがある。
しかし今目の前にある『それ』は間違うこと
なく椿の指であり、わざわざ送ってくる
くらいなのだ。そんなことはないだろう。

口の中から血の溶けきった指を取り出して
再び断面を眺める。

そこに、白く細い椿の骨が見えた。