1話 ページ2
思えば、産声をあげた時が唯一人間らしかった気がする。
深い洞窟の中に差し込む光、体に巻かれた白い布、頭を撫でる誰か、［A］と私に向けられた名前。
生まれた瞬間、肺に初めて空気が入ったのが痛くて泣いたこと。
私は母との記憶が殆どない。精々名前を貰ったことと、私の隣で穏やかに死んだことくらいしか思い出せない。
幼ないが故にどうすればいいのか分からず、悲しくて寂しくてただずっと泣いていた。
そう、確かそれからすぐのことだ。
洞窟にあの人が……＿＿＿
『…ゆめ…か』
瞑彩鳥の鳴き声と太陽の光を彩るステンドグラス。体温で程よく暖かくなってる布団が起きたての冷えた体にじんわりと熱を与えてくれる。
木々のざわめきがいつもよりよく聞こえるこの時間は、心做しかゆっくりと感じる。
起き上がり、朝ごはんを作ろうとキッチンに行けばテーブルの上には外したアーカーシャ端末と、そのすぐ隣に切られた封と腰の曲がった手紙が置かれている。
手紙の内容は、既に読んだものだ。
育ての親の訃報が、つい昨晩届いた。
あの人が簡単に亡くなるとは到底思えない。
そう思うのは、単に育ての親だから信じたくないのか、それともそう簡単に死ぬ訳が無いだろうという呆れからなのか。
恐らく、後者だろう。
とは言いつつ、もし嘘だとしてもこの様な手紙が届くような状況を心配しない訳がない。
何より私は、この訃報が本当かどうか確認しなければならない。
故郷へ帰らなければ。そうおもった。
『着替え、食料、モラ……あと休暇申請………これくらいか？適当に土産も選んどくか』
ある程度準備が終わり、時間を確認するとスメールシティ内の商人たちが店を開け始める時間だ。
休暇申請を出すなら本来は数日前に出さなければいけないが、身内の不幸といえばいくらアザールでも多少の慈悲ですぐ承諾してくれるだろうと淡い期待を抱き、玄関を開く。
「おや、おはようございますA様。今日も天気がいいですねぇ、ちょっとお年をとりましたか？」
『おはようラードさん、そう思う？実は昨日初めて白髪を見つけたんだ、最高に嬉しいよ。そうだ、急で申し訳ないけれど暫く遠出してくるから家のことは任せるね』
「やっと有給を使うつもりになってくださったのですね。畏まりました、どうぞ有意義な時間をお過ごしくださいませ」
『ありがとう！』
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作者名：ぺろりとろろ x他1人 | 作成日時：2023年10月23日 21時
