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私と兄が人生で初めての兄妹喧嘩をしたのは、私の高校受験を目前に控えた一月半ばのことだった。私はそれまでずっと志望校を兄に隠してきたのだが、喧嘩のきっかけは兄が何度もそれを私に尋ねたこと。今思えば私の緊張を解すために兄が気を利かせて放った冗談のようなものだったのかもしれない。
受験勉強のストレスと、…あとは兄へのやり場のない気持ちのせいであろうか。積もり積もったそれらが爆発し、一方向に兄へと向けてしまったのだ。
「兄ちゃんには関係ないでしょ」
大声を上げて椅子を蹴散らすように立ち上がると、兄の静止も聞かず無心に家を飛び出した。玄関のドアが閉まる間際、一瞬だけ見えた兄の悲しそうな顔が脳裏に焼き付いて離れない。
私はつくづく馬鹿である。兄のように冷静ではいられない。今までだって同じように兄は私を妹として扱っていたし、それが普通であることも自身も理解していたつもりだったのに。崩れるきっかけは突然で、私にそれを予測することなど出来るはずがなかった。
外は薄暗く、時折身体を吹き抜けていく夜風が冷たい。少しだけ冷静になってきた頭で思い返し、何も悪くない兄に八つ当たりをしてしまったことを後悔した。
行く宛もなくだらだらと歩いた末、小さな寂れた公園に辿り着いた。ブランコに座れば、木の冷たい感触がひんやりと冷たい。寒いなぁ、と息を吐けば、それらは白い渦となって宙へ昇っていく。
ブランコを小さく揺らしながらもうひとつ息を吐いたとき、不意に着信音が鳴った。それは静かな夜の公園には無機質に大きく響く。ポケットから取り出し明るくなった画面を見て、そのままぼうっとしてしまった。次第に鳴り止んだ音は、束の間再び鳴り響く。それを幾度か繰り返して、私は乱暴に電源を切った。
冷たい風が熱くなった頭を冷やしてくれたようで、幾分冷静さを取り戻しつつある。「兄に恋慕の情を向ける自分」という現状を、ただ無表情で俯瞰しているのだ。焦がれる想いは一般的な恋愛と変わらないのに、決定的な違いとして私には選択肢が存在しない。進む道など端からないのだから、来た道を戻るしかないのだ。
「…馬鹿だなぁ、」
ぐるぐるとループする思考を無理矢理に停止させ、ただ一言呟いた。何気なく顔を上げる。星一つない虚しく陳腐な空に、またふうと息をかけた。
…そろそろ家に帰らなければ。
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作者名：灯彗 x他2人 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年5月2日 22時
