fin ページ26
.
.
「ベクヒョンくん」
彼は鋭い目でこちらを見ていた。
走って息切れしたのか、興奮状態にあるのか、
肩を上下させて息をしている。
「今すぐナイフを捨ててこっちに来て」
「嫌だ…
このままじゃ、またあいつに何もかも奪われる」
「え？」
「今度はアメリカの病院に移すって言われた。
多分一生帰ってこられない」
自由にするためではなく、
さらに閉じ込めるための退院？
彼の父親の仕打ちに愕然とした。
「私も…どうにかできないか掛け合ってみるから」
彼の目は血走っている。
ナイフはいつの間にか首に当てられていた。
「ベクヒョンくん、また夕日見に行こうよ。
だから、」
「Aさん…本当は俺、
あいつに口紅取り上げられそうになった後から見えてないんだ」
「何が？」
「赤」
その瞬間、
体から出て行くのを待っていたかのように、
彼の赤が噴き出した。
赤。なんて鮮やかな赤。
彼は自分の手に飛んだ血を凝視すると、
目に見えるほど震え始めた。
震える手からナイフも滑り落ちる。
「ベクヒョンくん！」
駆け寄って彼の首にハンカチを当てて止血したが、
噴き出す血は止まらない。
「誰か！！」
助けはまだ来ない。
「ベクヒョンくん、もう少し待ってて」
「A…さん、俺の血って…
赤じゃなかったんだ」
.
.
あの日から私が考えることといえば。
彼が父親に会った日から
赤も見えていないとしたら、
夕焼けを見た日…
あのときの彼の目には、
本当は全てモノクロに映っていたのだろうか。
私に気を遣って見えてるフリをしたのだろうか。
彼は悲しくて泣いたのだろうか。
もしくは、あの赤だけは見えたのだろうか。
それが嬉しくて泣いたのだろうか。
それとも、
彼の脳が“見えた”ことにしたかったのだろうか。
そして彼が意識を失う前に見たのは、
瞼の裏の黒か、
焦がれていた鮮やかな色か…ー
「Aさん夜勤明け？」
「はい、これから帰ります」
「…あまり無理はしないでね」
「ありがとうございます。お疲れさまです」
建物を出ると、外は少し肌寒かった。
空は暗く、嵐が吹き荒れる前のようだ。
彼の目にはいつも
こんな空しか映らなかったのかもしれない。
「おはようございます」
お馴染みの警備員に声をかけると、
彼は笑顔でこう言った。
「おはようございます、
今日は綺麗な青空ですね」
〜fin〜
終わり
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ゆう(プロフ) - とってもキュンキュンしました！どの作品も大好きです！（；＿；）マイペースにまたお話の更新待ってます^_^ (2018年1月15日 23時) (
レス) id: 08fbd2dc26 (このIDを非表示/違反報告)
かのか(プロフ) - 可愛らしい、べくとのお話とジョンイニズムスピンオフ。こんなにも違うものが両方面白いって。凄い。 (2017年1月16日 14時) (レス) id: c8ddff6bd6 (このIDを非表示/違反報告)
アイ(プロフ) - ジョンイニズムとても衝撃的な作品で今でもふと考える事があります。スピンオフありがとうございました！ (2017年1月15日 15時) (レス) id: 61651178cb (このIDを非表示/違反報告)
kou(プロフ) - ジョンイニズム一気読みしてしまいました、、なんか色々と衝撃すぎて語彙力のない私には上手く感想が伝えきれないんですがすごくおもしろかったです、、 (2017年1月15日 2時) (レス) id: bd7f07117d (このIDを非表示/違反報告)
みの(プロフ) - ジョンイニズムのスピンオフ(TT)嬉しすぎます、ほんとに、、！！ほんとにありがとうございます(TT)国家試験頑張れます(TT)何度も言ってますが 笑 ぺっぱーさんの書くジョンインが1番好きです(TT)ありがとうございます(TT) (2017年1月15日 0時) (レス) id: cc979909b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぺっぱー
| 作成日時：2017年1月7日 18時
