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塗らせて?
口紅を塗ってもらうだなんて、
そんなのコスメカウンターでも恥ずかしいのに。
「ごめん、明日からちゃんと塗ってくる。
だから今は大丈夫だよ」
「お願い」
無表情だった。
私の腕を掴む力が急に強くなって、
拒む勇気が萎縮した。
「……分かった。じゃあ頼むね」
ベクヒョンくんは一転して笑顔を見せると、
私があげた口紅を取り出す。
「はい、ここ座って」
ベッドのふちを叩いて彼は楽しそうに言った。
ベッドの脇に立つとぐっと近付いてきて、
不覚にも脈が速くなってしまう。
「……くすぐったい」
「お客さん、動かないでください」
「はみ出さないようにね」
「…あ、ほら〜。
Aさんが喋るからはみ出しちゃったじゃん」
さっきまでの無表情は何だったのかと思うほどの、
年相応の無邪気な笑顔。
あの張り詰めた空気はどこへいったのやら…
「うん、いい感じ」
微笑むベクヒョンくん。
「あんまり見ないで、なんか恥ずかしい」
そう言ってベクヒョンくんを見たとき
直感的に嫌な予感がした。
だってほら、
頬に手が伸びてきて…
(あ、まずい)
そう思ったときには遅くて、
私の唇はベクヒョンくんの唇と重なっていた。
押し返そうとするが彼の力は思ったより強く、
いつの間にか私はベッドに片肘をついていた。
彼の言う“綺麗な赤”を見るために
舌を噛み切られるんじゃないかと思ってしまった。
だけどあれ以上抵抗することができなかったのは、
閉じているまぶたの裏には何色が浮かんでいるのか
想像して悲しくなったから…ー
「…せっかく塗ってくれたのに、とれちゃったよ」
突っ立ったまま私を見下ろす彼に、
そんなことしか言えなかった。
“どうしてこんなことしたの?”と
咎めることはできずに。
「だって、綺麗だったから。Aさん」
そう言って見せた笑顔は
無邪気なものとは違っていた。
「今度から絶対塗ってきてね、赤」
彼の唇にも付着した赤い口紅は血のようで、
その姿はまるで悪魔を彷彿させた。
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ゆう(プロフ) - とってもキュンキュンしました!どの作品も大好きです!(;_;)マイペースにまたお話の更新待ってます^_^ (2018年1月15日 23時) (レス) id: 08fbd2dc26 (このIDを非表示/違反報告)
かのか(プロフ) - 可愛らしい、べくとのお話とジョンイニズムスピンオフ。こんなにも違うものが両方面白いって。凄い。 (2017年1月16日 14時) (レス) id: c8ddff6bd6 (このIDを非表示/違反報告)
アイ(プロフ) - ジョンイニズムとても衝撃的な作品で今でもふと考える事があります。スピンオフありがとうございました! (2017年1月15日 15時) (レス) id: 61651178cb (このIDを非表示/違反報告)
kou(プロフ) - ジョンイニズム一気読みしてしまいました、、なんか色々と衝撃すぎて語彙力のない私には上手く感想が伝えきれないんですがすごくおもしろかったです、、 (2017年1月15日 2時) (レス) id: bd7f07117d (このIDを非表示/違反報告)
みの(プロフ) - ジョンイニズムのスピンオフ(TT)嬉しすぎます、ほんとに、、!!ほんとにありがとうございます(TT)国家試験頑張れます(TT)何度も言ってますが 笑 ぺっぱーさんの書くジョンインが1番好きです(TT)ありがとうございます(TT) (2017年1月15日 0時) (レス) id: cc979909b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぺっぱー | 作成日時:2017年1月7日 18時