短編集「ケースバイケース」３

The day (you were born) ページ14

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去年より冬のボーナスがちょっぴり上がった。

嬉しくて、勢いで背伸びして買った
赤い革のスケジュール帳。


ペンを握って少し悩んで、
私は初めてその手帳にインクを染み込ませた。



1月14日(日) “ジョンイン先輩誕生日”





______________『The day (you were born)』









職場恋愛なんて後腐れ悪いこと、
絶対したくないと思ってたし、
するはずもないと思ってた。


だけど私は好きになってしまっていた。

それも同じ課の上司を。



「ジョンイン先輩」

「ん？」

「ジウォンさんからお電話です」

「ありがとう」

向かい側のデスクから彼は微笑んで、
電話を取った。


「お電話替わりました。
あーいえ、お世話になっております。」


電話なのに頭を下げちゃうとこが好き。

受話器をすぐ持ち替える癖が好き。


「はいはい、あー、あのときの」


メモを取るときの伏し目がちな感じが好き。



笑うと口角がキュッと上がるのが好き。

朝やたら眠そうに出勤してくるのが好き。

変に香水なんてつけてないとこが好き。

ブラックコーヒーを無理して飲んでるのが
顔に出ちゃうとこが好き。



私はいつからか、ジョンイン先輩が好きだ。








「Aの課のジョンインさんって謎だよね」


残業中トイレで出くわした他課の同僚が、
化粧を直しながら言った。


「謎？」

「かっこいいのに浮いた噂全然聞かないし、
飲み会もあんまり参加しないし、
そもそもまず情報の絶対数が少ない」

「たとえば？」

「実家暮らしか一人暮らしかとか、
出身校とか、家族構成とか、彼女の有無とか」

「全部知ってたら逆にストーカーじゃん」

「えーそう？
私今の彼と付き合う前全部リサーチしたよ？」

「へえ〜」


ごめん。

私も余裕でやってた。
だからさっきの項目もおおかた知ってたりする。


人との会話を耳をすませて聞いたりとか、
横目でお弁当覗き込んだりとか、
フェイスブック(今は使ってなさそう)を見たりとか…

だからスケジュール帳に書き込んだ誕生日も
フェイスブック調べだったりする。


ただ、彼女の有無は知らない。


同僚の言ったとおり、
先輩は自分のことをペラペラ喋らないし、
変な噂も聞かないような真面目な人だから。


「なーに神妙な顔してんの」

「…いや、なんでもない！」

「残業ばっかで疲れてんじゃない？
今日も最後の一人？」

「うん、安定の」

「お互い頑張ろ！」


バシッと叩かれた背中がやけに痛かった。


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