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嫣然と ページ9

天童side


中に入った途端、奴らからの鋭い視線と共に、割れんばかりの歓声が聞こえた。


公式じゃないただの練習試合だというのに、上のギャラリーは相変わらず人で埋まりきっている。


及川達から向けられる視線……主に三年生からのものは、以前とは違う焦りを含んでいるようにみえた。


今更、巴チャンがただの被害者だって気付いたのかもネ。それで自分の正当化に走ってるとか。



「……なんか変だな。いっつも及川コールすげぇのに」



英太クンに言われて確認すれば、確かにいつもと同じぐらい女子はいるのに、及川単体への声援は聞こえない。


あくまでも青城への応援だけだ。


それに違和感を覚えながらも巴チャンの方を見た時、ぞわりと、全身が総毛だった。




恍惚。




まさにその言葉でしか表現できない、視界に映るもの全てが愛おしいとでも言いたげな目が、心から満たされたように吐息を洩らす唇が、奥に薄っすらとした狂気を秘めて、ついとしなる。


向こうで彼女の素顔を見て呆けている及川達に気付いていないのか、サングラスをとった彼女は、景色を堪能するようにゆっくりと会場を見渡す。


若利クンが名前を呼ぶと彼女は振り返り、俺達を見て、微笑んだ。





『美しいもん、見してくださいね』





ある種の純粋な狂気を碧の瞳にじわりと滲ませ、何よりも優しく、毒々しく、“美しい”笑みを浮かべ
た。


この喧騒の中、艶やかさを含むその声は掻き消されるどころか凛とした響きをもって、脳にこだまする。


映像よりもずっとリアルな声に、表情に、心臓がいっそ止まりそうなぐらいの興奮を覚えた。


バレーをしてる時とはまた違う感覚に体が震えて、異常なまでに気持ちが昂っているのを自覚する。


それが俺だけじゃないことは、彼女へ向けられた幾対もの眼を見ればわかる。


欲に眼をぎらつかせる俺達に、彼女は愉し気に目を細めて扇子で口許を隠す。


濃紺に金糸で刺繍された牡丹が、応えるように妖しく煌めいた。

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ta0628tm0105(プロフ) - 続き待ってます! (2020年9月26日 8時) (レス) id: 0ed1a1911f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:べれと | 作成日時:2018年10月28日 13時

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