知らない感覚 ページ8
今朝受け取った渡くんからの手紙で、あの日勇くんの存在をすっかり忘れとったんに気付く。
……いや会いに行ったんは渡くんだけやし。元からその予定やったし。
別に勇くんの存在忘れとったとかやなくて、元から予定に入ってへんかっただけやし。
「ソレって、その予定組む段階で忘れてたってことじゃないノ〜?」
『……ちゃいますって、多分。ほら必要ないって無意識に判断したんですって』
「より酷いこと言ってると思うヨ」
『えぇ……』
言い訳ができんくなって、ぐでんと椅子の背に体を預けた。
目の前で参考書とノート広げてはる天童さんも、問題のキリがええのかシャーペンを置いて伸びをする。
夏休みが近付いとる、つまり学期末のこの時期には定期テストという存在があるわけで。
赤点・補習コンボを避けるために、こうして勉強会なるものを開いとるらしい。
私らが早く来すぎて、他の人ら全然来てはらんけどね。
「あ、ネェ、巴チャンここわかる?」
『あい、どこでしょう』
「コレ」
天童さんが指す問題を見るために、少し身を乗り出す。
『こことここで連立できますから、文字おいて、こう……』
「……あー! なるほど」
最初の方の式を並べると納得したように声を出した彼に驚いて、顔を上げた。
それにつられてか彼も顔を上げて、目ぇが合った。ばちりと音がするぐらい、派手に。
数瞬の間互いに何もせんとただ見つめ合って、そこから天童さんが、はにかみながら小さく笑う。
彼の目尻が、水に赤い絵の具を溶かしたみたいに、ふんわりと、じんわりと、染まっていく。
その様を、私はじっと眺めていた。
この感覚が、何と表現されるものなのかは、わからない。少なくとも、“美しい”とは別の感覚。
ただ、“見惚れる”やとか、“目を奪われる”というのはこんな感覚なんやろうなと、胸に不思議な苦しさのようなものを覚えながら、ぼんやりと思った。
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ta0628tm0105(プロフ) - 続き待ってます! (2020年9月26日 8時) (レス) id: 0ed1a1911f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:べれと | 作成日時:2018年10月28日 13時