【HQ】美しいものが好きその４！！！ (ページ4)

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割り込めないページ4

国見side

『今晩はええ晩ですね渡くん。お元気？』

更衣室前でやってた夢園との会話を先に抜け出て校門に向かうと、懐かしい声が聞こえてきた。

一ヵ月以上聞かなかった、ここではもう、聞こえるはずのない声。

慌てて近くの陰に隠れてそちらに目を遣れば、見たことのない女性がそこにいた。

一つに束ねられた白い髪に、アクセントのように混じる黒い髪。白い睫毛に縁取られた深い色の瞳が、ついと嬉しそうに細められる。

彼女の放つ浮世離れした独特な緩い雰囲気に、神楽さんだと何となくわかった。

誰もに友好的な明朗さと奥に何かを隠し持っているような仄暗さが混ざる、どことなく曖昧で、ふいに消えてしまいそうな儚さを、彼女はいつも身に纏っている。

彼女は渡さんにゆらりと手を振ると、何の緊張もなく渡さんに近寄った。普段よりも、ずっと近くに。

その近さを見るのはこうやって盗み見るときばかりで、決まって他には誰もいない。

肩も触れ合う距離だというのに、あれでただの友達だというのだから、本当に彼女はよくわからない。

彼女がそういう意味で好きな相手はいるのか、なんて馬鹿げたことを考えて、一人不愉快な気分になった。

神楽さんに会えなくなったからかもしれない。最近、やけに彼女の顔がちらつく。

だから、会えたら話そうと、思っていたのに。

二人の近さは、いつもそれを躊躇させる。

「元気だよ。なんか及川さん達も諦めて自分達でスポドリとか用意してるし」

『夢園さんもまだいてはるんやねぇ』

「うん。……不安なのかな、ここんとこ、ずっと夢園をちやほやしてる。金田一も今それに付き合わされてるし」

『……君から話を聞くと、アホらしゅう思えるわぁ』

「実際馬鹿だよ、あの人達は」

昼間の喧騒が嘘だったみたいに静まり返る中で、ひっそりと喋る二人の姿は恋人のように近しく、ただひたすらに、互いだけを見ていて。

ほんの一瞬浮かんだ汚い感情を、俺はすぐさま掻き消した。

『……あぁ、せや、今度の練習試合の話はもう聞いた？』

「監督から、今日。相変わらず、夢園は忘れてたってさ」

『あらら。伝言ぐらい簡単やのにね。……正直、お相手が青城や聞いた時は驚いたわ』

もう幾度と見せた困り顔をした後、彼女は少し黙り込んでから、ゆっくりと口を開く。

……二人との距離は、そう近くない。

なのに、俺はその時彼女が浮かべた表情を、この薄暗い中、はっきりと、見てしまった。