35話 ページ35
イプシロンとの試合が終わりひと安心していた木暮の元に「やったね！木暮くん！」と春奈がやって来た。
「お前奴らのシュートをカットしたんだぜ！」
「やっぱり意外性があったね」
「あぁ結構やるもんだな」
「本当だよね補欠にしとくのもったいないよ」
初めは難色を示していた土門や塔子が今や木暮の実力をしっかりと認めている。
「ってことだ！お前すげえぜ！」
最初の内は呆気にとられていた木暮だが口々に褒められだんだんと頬を染め表情を明るくさせた。
「そうさ俺凄いんだ！ウッシッシッ」
嬉しさを噛み締めている木暮を微笑ましい思いで見ていた蒼龍たちの後ろからドタドタと複数人が走ってくる音がした。
「たいしたものだ木暮！」
音の正体は漫遊寺サッカー部だった。部員の活躍が余程嬉しかったのか笑みを浮かべて木暮の元へと走ってくる。
「見事だったぞ！うわぁ！」
『こちらに向かってくる途中に落し穴にはまってしまった彼らは音をたてて落っこちた。
思わず肩を上げ目を瞑った蒼龍の前には漫遊寺サッカー部を探したときに廊下で滑って転んだいつぞやの雷門イレブンのように折り重なって倒れている漫遊寺サッカー部がいた。
中には落ちる寸前に踏ん張っている者もいる。これが日頃の修行の成果なのだろうかと蒼龍は場違いにもそんなことを考えた。
「大丈夫ですか！？」
「ウッシッシッ！遅いんだよ！今頃俺が凄いって分かったのか！」
さっきまで中心にいた木暮がボール片手にフィールド外に出ている。
「木暮くん！」
大声で叫ばれた木暮はいたずらを見つかった子どものような顔してボールを落とした。
「あなたを褒めているのにその態度はなんなの！？」
逃げ出した木暮を追おうとした春奈を「お待ちなさい」と誰かが止めた。
円堂と一緒に漫遊寺サッカー部の人たちを助け起こしていた蒼龍は声のした方を見た。
笠を目を覆うほど深くかぶりどこか僧侶のような格好をした老人だった。
「監督！」
『え？』
「漫遊寺サッカー部の？」
「はい」
「今までどちらに？」
「この子たちが我が校を守るために如何にするか、その決断もまた修練。勝つも負けるも人生の無駄にはならぬとなにも言わず見守っておりました。あなた方と戦った木暮とて同じことですじゃ。お嬢さん」
「！」
「木暮の心にあなたの言葉はきっと響くはず今日のお心遣い本当にありがたいことですじゃ」
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作者名：南極 | 作成日時：2019年11月29日 20時
