蒼い月の詩 (ページ29)

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29話ページ29

フィールドへ入った木暮に対して塔子を筆頭にこいつで本当に大丈夫なのかという冷たい視線が突き刺さる。吹雪や蒼龍と違い木暮の実力は未知数だ。
　そんななか吹雪は木暮に向かって手を振り

「木暮く～ん楽しんでいこうよ～」

　と暢気に言っている。「お前そればっかだな」とうしろで呆れたように染岡がぼやいた。そんな吹雪を見つめている者が一人いた。蒼龍である。

(摺揚原のときはすぐに終わらせたから見れなかったけど今回は見れそうだな)

　白恋中で行われたジェミニストームとの試合の中継を見たときから気になっていた吹雪の攻守での人が変わったようなプレーの変化を蒼龍は実際にこの目でみたかった。

(入ったばかりだから皆と合わせられないなんて尤もらしい理由は言ったが、本当は吹雪を観察したいなんて言えないな…まぁイプシロンの動きも見てみたいしいいか…)

　ジャージーのポケットに両手を突っ込んだ状態で吹雪を静かに見ていると「雷門中」とデザームが腕を組んだまま声をかけた。視線が吹雪からイプシロン側のゴールにいるデザームへと移る。

「ジェミニストームを打ち破った唯一のサッカーチーム。たったそれだけのことで我らに勝てると思うとは、我らイプシロンの選手も随分と舐められたものよ」

(舐めてるのはそっちだろ…イプシロン…一人一人の選手のレベルが高い。ジェミニストームは速さに秀でていたけどこっちはそうじゃないな…ねえ、兄さん、兄さんだったらどう思う…)

　デザームの言葉に内心反論しながら兄さんだったらと考えた。観察眼のある人だからすぐに打開策をみつけるだろうなと一人ぼんやりと考えた。

「諸君！キックオフといこうか！」

「暴れ足りねぇなぁ、レーゼに勝ったんなら少しは手応えあんじゃねぇの？」

「お手並み拝見といきましょう」

「ぶっ潰す」

「命知らずってマキュア大好き」

　
　イプシロンがなにやら好き勝手言っているが蒼龍の耳には入ってこない。

「聞けい！雷門中！」

と声を張り上げたデザームの言葉で考え事から意識を戻し再びデザームへと視線を移した。