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【生い立ち】
幼い頃から寝てばかりだった。でも、それは家庭のせいじゃない。至って普通の、常識的な家庭で育ったのにも関わらず半ヤク中のようなどうしようもない人間に育ってしまった。
「どうして誰もわかってくれないの」
「お父さんもお母さんもみんな大嫌い……」
母親も父親も普通だった。姉も妹も普通だった。
なのに、ペコーラだけが普通じゃなかった。頭がおかしかった。だから家族にも好かれなかった。
「どうしようもないね」
「何をやらせてもダメ。なんでお姉ちゃんみたいに出来ないのかしら」
「あんなグズが妹だなんてほんっと嫌になっちゃう！家の恥よ！恥！！」
「ぶっちゃけさ、あの人より私の方が出来いいよね〜。引き合いに出すと私がすっごく優れて見えるから、逆にいてくれてありがと〜！って感じ！お・ね・え・ちゃん！きゃはははっ！」
ペコーラだけ普通じゃないから。無能で役立たずで、挙句に頭がおかしいんだから。だから理解してもらえなくて当然なのだ。悪いのは、誰が仕向けたわけでもないのにグズでノロマでイカれた頭で育ってしまったペコーラ本人なのだ。
「わたしなんかいない方がいいんだ。でも、消えてなんかやるもんか。だってわたし、何も悪くなんかないのに」
そのくせ、意地を張って消えようともしない。申し訳なさそうにすらしない。家族に迷惑しかかけていないのに、タダ飯食いのくせに、謝りもしない。ただ、現実から逃げようと眠るだけの日々を送る。惰眠に縋ってばかりのペコーラを、周りが快く思うはずもなかった。
ペコーラもまた、家族にすら気を許すことがなかったが、中でも父に対しては、特に嫌悪感を抱いていた。
父は娘達と血の繋がりのない継父だったが、ペコーラに対しては他の家族と変わりなく暴言を吐き、侮辱し、存在を否定した。かと思えば、後からこっそりペコーラの部屋を訪れ、布団に蹲って枕を濡らしている彼女に、甘やかすような柔い声を掛けた。
「さっきはごめんね。いつも言ってるけど、本気じゃないんだよ」
「僕は君の味方だよ。ペコーラ、顔を見せてくれないか」
そう言って、グズでトンチキなペコーラに声を掛けるのだ。ペコーラがようやく恐る恐ると布団から顔を出すと、強く身体を引いて抱きしめた。そして、耳元で囁く。
「大丈夫、愛しているよ」
これがお決まりの、継父の言葉だった。
そしてそう言いながら、ペコーラの肩を、背中を、やがて腰へと伝って手を伸ばし────
やがてシャツの中に、その骨ばった手を滑り込ませた。
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