消えた初恋 短編集

井田王子 ページ11

文化祭で急遽代役でした役のせいで
井田はすっかり王子キャラになってしまった

井田王子

途中で出会った井田と
いつもと同じ道を歩いているはずなのに
何だか景色がくすむんで見えてしまうのは

「キャー井田王子〜かっこい」

朝から何回も聞いたこの言葉のせいだろう

隣を歩く井田はというと、そんな声なんて
まるで聞こえていないかのように
いつもと変わらない様子で俺に話しかけてくる

話の内容も、豆太郎がどうのこうのとか、
昨日見たテレビの話とかどうでもいいような
内容ばかりだ

「お前聞こえてるんだろ？」

「えっなにが？」

こんなにもキャーキャー言われてるのに
わからないなんて事あるわけがない
何だよこいつシラを切りとおすきかよ

ただかっこいいと言われてるだけじゃぁなくて
何人にも告白されてる事だって知ってる

でも、こいつは俺に何にも言ってこない
なんでだよ

俺の心の中はモヤモヤからイライラへと
変わっていく

「はぁ？聞こえてんだろ？」

「何が？」

なんだよ、まだ知らんぷりかよ
そんな井田の態度にますます俺のイライラは
強くなっていき

「井田王子かっこいいって聞こえてるだろ」と
語気を強めて言うと「あぁ」となんとも
白々しい返事が返ってきた

なんだよ、その返事

恥ずかしがるとか俺に少しは悪そうにするとか
そんなんだったらまだ、俺は井田の恋人だしなんて
心の中で少しは余裕が持てるのに

なんでこいつは何事もないかのように
いつもと変わらずいてるんだ？

もともとネガティブに考える癖がついてる
俺の思考は悪い方に考えるのは大得意で

井田にとって俺なんて取るに足らない存在で
だからわざわざ俺に言い訳する必要ないのか？
それとも気にしてない振りして実は裏では
メチャクチャ喜んでる？
そんでもって、可愛い女の子が来るのを
今か今かと待ってて
可愛い女の子の虜になって
そして俺はきっと捨てられるんだ

勝手にした想像だけで俺の不安がどんどん膨らんで

「もういい、お前なんて可愛い女のこの虜にでも
　なんにでもなっちまえ！」

そういい放つと
井田から離れるように走って教室へと向かった

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