夏の終わりに想うこと (ページ19)

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雅サイド

完全に俺が悪いんだ。

こんなに翔ちゃんを怒らせて。

言わなきゃいけないことはわかってた。

はじめに痛み出したときは鏡の前で口を開けて見てみたりもしていた。

だけど最近はもう見るのも怖くて。

何もしてなくても痛いのに、そこを削られるのなんて痛いに決まってる。

明日は言おう、明日は。って思って先延ばしにしていたら翔ちゃんに見つかった。

5箇所も虫歯が見つかって怒らないわけないよね。

なのに表面麻酔までしてくれた翔ちゃん。

頑張ろう、って思うけど

翔「もっと大きく開けろって。見えねぇよ。」

怖さに比例して閉じちゃう口。

いつのまにかバイドブロックを挟まれてた。

キュイーーィン、キュイーーン。

静かな院内にタービンの音が響く。

段々と痛みが強くなってきて漏れてしまう声。

雅「んっ。あぁ。」

それをみて和が

和「まだまだあるからね、頑張ろうね。」

なんて声をかけてくれるけれど。痛みがおさまるわけもなくどんどん襲ってくる。

雅「んぁぁあああ！」

和「痛いねー。でもお顔動かないよー頑張れ頑張れ。」

無言の翔ちゃんからの圧力。チラッと目を開けてみるとすごく真剣に削ってくれている。

どうしてこうなってしまったんだろうと自分の不甲斐なさと容赦なく襲ってくる痛みに耐えられなくなり涙が止まらなくなった。

和「翔ちゃん。」

翔「はぁ。一回止めるか。起こすぞ。」

見かねた和が止めてくれたみたい。

口を濯ぐこともできずに泣いている俺に翔ちゃんが

翔「雅紀？俺がどうしてこんなに怒ってるかわかる？」

雅「おれ、が言わ、なかったから。ひっく。」

翔「そうだよな？いつも言ってるよな？はやく教えてよって。そうすれば削るのも痛くないよって。お前も患者さんにそうやって言うだろ？」

ずっと背中をさすってくれている和。

翔「俺は悲しいんだ。あぁ、また雅紀の歯を守ってやれなかったって。雅紀はそれでいいのかなって。」

雅紀「やだ、おれが、わる、いの。翔ちゃんは、わるくない。今度はちゃんと、言う。ごめんなさ、い。だから、おこら、ないで？」

翔「ん。わかったよ。ちゃんと言うんだよ？そうすれば怒らないから。怖かったな、ごめん。」

雅「んーん、おれの方こそごめんなさい。」

怒らないよって言ってくれて安心したのかまた涙が止まらなくなっちゃった。