【selly】道を間違えずに進めたら良かったのに。2

5-9 ページ34

.







小さな声だ

でも私はsellyの前に座っていて、髪の毛が触れられるようなそんな近い距離にいて



テレビもついてなければ、音楽も流れていない環境音ゼロのこの空間でその聞こえないはずがなかった





それでも私はずるい人間で、弱っちい人間だから




｢───なに？｣




聞こえないふりをした。





だって、それは叶わない事だ
sellyがいくらいいよと言おうが、私がいくらここに居たいと言おうが



私は日本人で彼は韓国人。

国境をまたげばそう簡単には住むことは出来ない。まして……仲の悪い国同士だ




あーぁー、世の中世知辛いなぁ




私は床に腕を着いて立ち上がった
sellyが持っていた私の髪も全てを引き上げて



そしてくるりと反転してsellyを上から見下ろす
あぐらをかいているsellyはこちらを向くことはしない

綺麗に分けられているつむじに指を押し当て私は笑った






｢ありがと、selly。私、sellyが韓国の中での最初の友達で、いっちばんの友達だよ｣







まだお世話になりました。と言うには早いけどこれくらいの感謝は妥当でしょう

やっぱり今日、sellyになんか買えば良かったな……



ごみだーごみぃーって言われても、なんでもいいから渡せばよかった





｢明日、もし空いてたら私に付き合ってよ。
二人で最後のお出かけがしたい｣




そこでようやくsellyは顔を上げて、sellyのつむじを抑えていた私の人差し指が掴まれた



そのままsellyは私の指を引き寄せて手を開く

私の人差し指をじっと見つめる彼に、私は指をちょんちょんと2回曲げて見せた





｢治ったか｣




｢うん。五体満足！｣

閑話 [家族会議ならぬ]→←5-8

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す