桃色ストーリー 3 (ページ37)

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　『い、いつって……』

　なんて言ったら良いか分からんくて
　私は俯いてしまった

　あそこに私の居場所ってあるの？
　男の人が怖いのに私は戻れるの？

　思い出したくもない記憶が
　次々と蘇ってくる
　体の温度が一気に下がるような
　目の前がぐにゃぁってなるような
　そんな感覚になる

　そしたら賢ちゃんが
　私の手をそっと触れてくれた

　一瞬びくっとなったけど
　不思議と嫌やない

　それより
　細くて優しく触れてくる手が
　なんか安心できた

　川「…みんな、待ってるんやで」

　はっと賢ちゃんを見上げると
　フフって笑ってる

　川「…なんちゅー顔しとんねん」

　賢ちゃんが笑いながら
　ふわふわと頭を撫でてくれる

　川「俺は触っても大丈夫なんかな？」

　『…あ、ほんまや…』

　なんでやろ？？
　賢ちゃんに触れられても
　全く嫌な感じ、せーへんわ

　良かったわって笑う賢ちゃん

　『なんで？？』

　川「そりゃ、拒絶されたらショックやん」

　『そりゃ…そうやんな、ごめんな』

　川「俺早くAの漫才、見たいんやけど」

　『まん…ざい…うち…笑えるかな』

　ううん、人を笑わせられるんやろか
　なんやかんや言うても
　男性ファンの方が多いのは事実で

　分かってるねん
　みんなあの変なヤツみたいに私の事見てる訳やないって
　でも、やっぱり、怖い

　川「…もう漫才したくないん？」

　『…！そんなわけない！！
　 …そんなわけや…ないけど……』

　川「…天下無敵なんやろ？」

　『…え？』

　川「言うとったやん、自分で
　忘れたんか？」

　なんのことやろ…？
　ポカン、としよると
　賢ちゃんがまたフフって笑った

　川「なぁ、A
　俺ら、M-1の準決勝進出してん」

　『それは、おめでとうなぁ！』

　川「うん、ほいでな、今年はって思ってる」

　『…うん』

　それでもっと忙しくなるんやろうな
　先を越される悔しさと
　同期が売れる嬉しさが
　ごっちゃごちゃに混ざる

　川「M-1終わったら忙しなるやん」

　めっちゃ忙しくなるんやろうね
　大人気の和牛やもん…

　俯く私の手をぎゅうっと賢ちゃんが握る

　顔を上げると
　優しく微笑む、賢ちゃんの顔

　川「その時Aおらんの、やっぱ寂しいねん」

　ちょっと困ったように笑う賢ちゃん

　そんな優しい顔と声で
　語りかけんとってよ……
　
　