いつも貴方の側に (ページ8)

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朝の日課(２) ページ8

毎朝立ち寄るコーヒーショップ。
いつもの窓際の指定席でカフェオレとたまに気が向けば焼きたてのパンを一つ。

イヤホンでラジオを聴きながらぼんやり外を眺めるのが、いつの頃からか習慣になっていた。

ラジオから流れてくるのは、自分の声。

収録のオンエアを確認しながら、今日はどんな曲と話題をチョイスしようか考えていた。

それが。

いつ気づいたんだろう、その人に。

コーヒーショップの向かいにあるどこかの会社のパーキング。

いつも決まった時間に車を停めると、近くにある大きなビルまで小走りで行ってしまう。

放送が終わってから少しの時間を過ごして、ちょうどコーヒーを飲み終わって席を立とうかなというタイミングでいつもやってくる。

あ、いつもの、あの人だ。

スーツと傍らに持つビジネスバッグとトレンチコートがすごく様になっている。
いつもＴシャツにジーンズばかりの自由業の自分には、やけに眩しく目に映る。

イケメンってこういう人のことを言うんだろうな…
そう思って見ていた。

毎朝見ているうちに、なんとなくその人の気分がわかるような気がしてきた。

あぁ、休み明けでだるいんだろうな…とか。
今日は大きな仕事でもあんのかな、気合入ってんな…とか。
ちょっと元気ないみたい、何かあったんだろうか…とか。

仕事の都合とかわかんないけど
たまに決まった時間にその人が来ないとちょっと寂しい…かも。

…

は？

なんで俺、あの人の事ばっか、気にしてるんだろ…

ただ、毎朝見かけるだけのイケメン。

決まった時間に出勤する者同士顔見知りになったり、よく聞く話だ。

まぁ、自分は出勤じゃないし、顔見知りでもないけど。

…

は？

…なんで今、俺、がっかりしたんだ？

へんなの。

そして今日も、いつものカフェオレを手にいつもの席に着いた。
今日も…来るかな。

その前にオンエアチェックだ。

前日に発売されたばかりの洋楽雑誌を開いて、イヤホンを耳に。
プレーヤーをラジオに切り替えて、スイッチを入れると程なくして俺の声が流れてきた。

”おはようございます。今朝も素敵な音楽をあなたに。

大野智がお送りいたします。”

俺は気付いていなかった。

自分の事と、窓の外にばかり気を取られていたから。