いつも貴方の側に (ページ7)

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朝の日課(１) ページ7

”…ここまでのお相手は、大野智でした。また明日のこの時間にお会いしましょう。今日も良い一日を。”

プチっ

ラジオのスイッチを切る。
いつも通勤の車で聞いている、この番組。

「え？ラジオ、切っちゃうの？」

「うん。」

「普通流しっぱなしじゃないの？」

たまたま駅まで送る羽目になった母親に、怪訝な顔をされた。

「ほっといてよ。…ほらっ駅着いたって！」

「はいはい、ホント男の子は愛想がないったら」

「…うるせぇな。早く降りて！後ろつかえてるから」

「あ、翔。考えてくれた？こないだの…」

「だーかーらっ…俺はお見合いなんかしないって。

ちゃんと断って。」

「…ねぇ。彼女もいないんでしょ？好きな人もいないの…？」

「…うるさいなぁ。ほら、電車来るんじゃないの？早く！」

「あ、いけない！」

ブツブツ言う母親を降ろすと、ゆっくり車を発進させた。

あぁ、もう。
俺の大切な時間が、母親のおしゃべりで邪魔された。

彼女なんて。

ほんの１０分ほどのラジオ番組。
少し低めの良く響く柔らかい声で、朝の番組にしてはゆったりとした趣味のいい曲ばかりを紹介する。

俺はその声にすっかり惚れ込んでいる。

休み明けの憂鬱な朝、彼の声に癒される。
大きな仕事が待っていて緊張の解けない朝、彼の声に勇気づけられる。
思うように事が進まなくて泣きたいような朝、彼の声に励まされる。

毎朝同じテンションで話しているはずなのに、日ごとの俺の心にスルッと入り込んでくる、不思議な声。

自宅から勤務先まで３０分ほどの間、彼の声を聴いた後はスイッチを切って、先ほどまでの彼の声を思い出して浸るんだ。

わざわざこの番組を車内で聴く為に家を出る時間を調整している自分に気付いた時。

音楽を聴く時も、彼が紹介したアーティストばかりを無意識に選んでいることに気付いた時。

休憩時間にコーヒーを飲みながらぼんやりしていて、ふとその朝の放送を思い起こしていることに気付いた時。

その声から容姿をあれこれ想像してしまっている自分に気付いた時。

放送のない日曜日に自分のテンションがガタ落ちしていることに気付いた時。

彼が俺の心の中の多くを占めてしまっていることにも

否応なしに気付かされた。

会ったこともない、声しか聴いたことのない

電波の向こうの、しかも男性だ。

大野智、という人に。