僕のお気に入り 2

警戒してる？ (腰痛パンダ) ページ50

ピンチヒッターの授業も終わり、ジュノさんに挨拶を済ませてから事務所のエントランスへと向かった。

練習生とはいえ、熱心な質問に受け答えして喉がカラカラ…

自分も喉を悪くしては話にならないから、
目の前にあった自販機の前で足を止め

あ…これ…

最近お気に入りだったピーチジュースが目に入って迷わずボタンを押す。


すると

「僕といっしょだね」

『えっ！？』

ここにいるはずの無いふわふわした特徴的な声が、何処からともなく聞こえてきて

思わず、肩がビクリと跳ねた。

『タっ…タオ?!』

呼んで見るものの、姿が見えない。
そ、空耳？！
なんて言葉が頭を過ったけれど

「Aヌナ、びっくりした？」


それでも可笑しそうな笑い声がクスクス聞こえてくるから、これは現実みたい…

わ…恥ずかしいとこ見られた…

途端に顔が熱くなる。
タオといると、私、全然先生としての威厳が保てないんだけど…
なんだか居た堪れなくて、

『ねぇ…どこにいるの…？』

発した声は思った以上に掠れていた
あぁ…もう調子が狂う。


すると、

「ここだってば…」

『わ…』

自販機のすぐ隣、
どうやら死角になっているところに座っていたみたい

ひょっこりと顔を出したタオは、
未だに驚いている私を余所に、すばやく自販機からジュースを取り出して

「ヌナも座りな？」

私の手引き、再びベンチに腰掛けた。

あっという間の出来事、スッと視界が低くなって
気づけばタオの隣に座らされていたわたし。

なんだか距離が近い。
タオ、背が高いから…座っても全然私より大きいし

自販機とタオに挟まれて何も見えないけど…

廊下では他の社員の人たちの声が聞こえていて
な、なんか…

この状況、まずい？
嫌な意味でドキドキ、ハラハラ…

それに

『…っ』

れ、練習の後なんだよね？
香水でも着けてるのかな…
ほんのり甘い匂いが脳を刺激して

「なに？」
『いや…』

目があうと、それだけで心臓が自然と音を立ててる

それにこの距離…
タオの近くにいくと毎回、その…なんていうか…
き、きす…とか…


「警戒してる？」

タオが口を開いた。

警戒？

確かに…そうかも

この前だって…好きなんて言って…
大人をからかってるのか、それとも本気なのか…


「…心配しないでよ。もうフライングしないから」

いつもより落ち着いた声、

なんだかタオは切なそうな顔で

大人しいタオならいいのにって思ったのは私なのに

いつも以上に落ち着かない気持ちになった。

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