転校生は加古隊のオカン 5

13日目 ページ33

奈良坂side





奈良坂「…なるほどな」





白い息と共に声を絞りだす。


隣でゆっくりと歩を進める玲の話を聞き終え、そっとため息をついた。





奈良坂「取り敢えず三輪に連絡を入れるよ。必死に探していたからな」


那須「見つかってよかったけど見つけたのがよりによってAだったのよね」





玲が尋ねると、Aはよっぽど苦しんでいたのか素直に全てを話した。




“東京から帰ってきてから三輪の様子が少し違う”


“なんだか避けられているような気がする”


“目を合わせてくれない”




…三輪に嫌われたかも知れないと不安になりつつあったところに床に落ちた万年筆を見つけた。




“もしかしたら秀次が意図的に捨てたのかな、って…考えちゃって……”




ぽろりと一粒の涙を零し、Aは消え入りそうな声で言ったらしい。


走り去るような音が聞こえたらしく、恐らく本人が現場の近くにいたのだろう。


それで余計に彼女の不安が煽られたわけだ。





奈良坂「三輪はそういうところは不器用だから」


那須「ほんとよね。でもどんな理由であれAを泣かせる人は許さないわ」





玲は自分の隊のメンバーとAを泣かせる奴は徹底的に許さない。


それが玲の優しさと強さなのだろう、と思いながら三輪に連絡をいれた。





奈良坂「もしもし？」


三輪『どうした？今、東さんとご飯で』


奈良坂「探し物が見つかったぞ」


三輪『本当か！？』





ガタッと音がした。


あわてて外に出たらしく、さっきより声が大きい。





三輪『よかった…本当によかった……』


奈良坂「ああ、よかったな」


三輪『明日受け取りに行く。奈良坂が見つけてくれたのか？』


奈良坂「………いや、玲だ」


那須「！」





その後、いくつかの言葉を交わすと短い通話を切った。


隣で静かにしていた玲が淡く微笑んだ。





那須「素直に引き下がるのかと思って心配してたけど…そんなこともないのね」


奈良坂「まあな」





Aが拾ったことも、Aが泣いていたことも敢えて教えなかった。


玲は俺の恋心を知っているから咎めなかったのだろう。





那須「Aが幸せなら、誰でもいいの。透でも、三輪くんでも、出水くんでも」


奈良坂「……素直に応援はしてくれないんだな」


那須「そうね、ふふっ」





静かに笑う玲を家まで送り、自分も帰路につく。


帰路は見えても恋路は見えないな、と思いながら夜空に向かって白い息を吐き出した。

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